2026年10月10日の夜、米カリフォルニア州の砂漠に、満月よりもまぶしい光が突然現れました。近くを走っていた車が次々と路肩に止まるほどの明るさでした。米メディアのHoodlineやSky & Telescopeなどによると、これは人工衛星の鏡で太陽光を夜間の地上に届ける構想を進める新興企業「リフレクト・オービタル」による実証実験でした。天文学者や地元自治体には事前の連絡がなかったとされ、海外では光害への懸念とともに議論が広がっています。この話題は、日本ではまだほとんど報じられていません。
満月より明るい光、カリフォルニアの砂漠で何が起きたか
実験が行われたのは、カリフォルニア州ローンパイン近郊、標高4000メートル超のマウント・ホイットニーのふもとにある「ホースシュー・メドウズ・ロード」沿いの砂漠地帯です。地元紙The Sheet Newsや米Hoodlineの報道によると、強力な地上設置型のスポットライト数台が数時間にわたって砂漠を照らし、明るさは満月をやや上回る程度に達したといいます。
現場に居合わせた救助隊員によると、この光があれば周囲約5キロメートル(3マイル)を見渡すことができたとされています。一方、米国道395号線を走っていたドライバーたちが車を止めて見入るなど、周辺では驚きの声が広がりました。
リフレクト・オービタル社はこの実験について、連邦政府の土地管理局(BLM、国有地を管理する米連邦機関)や地元郡当局、天文学者らに事前の通知をしていなかったと報じられています。実験後、天文学者らの間で「なぜ知らされなかったのか」という批判が広がりました。
正体は「太陽光配達」衛星計画 ― リフレクト・オービタルとは
この実験を行ったリフレクト・オービタルは、2024年創業の米企業で、本社はロサンゼルス近郊のホーソーンにあります。同社が目指すのは、大きな反射鏡を備えた人工衛星を多数軌道に乗せ、夜間でも地上の特定の場所に太陽光を届ける「サンライト・アズ・ア・サービス(太陽光配達サービス)」です。
想定される用途は、夜間でも太陽光発電所を稼働させること、災害時の捜索・救助活動を助けること、建設現場を照らすことなどです。米連邦通信委員会(FCC)は2026年7月、同社の試験用デモ衛星「エアレンディル1号」に限定的な免許を承認しました。この衛星は展開時に約18メートル四方になる薄膜状の反射鏡を搭載する計画で、2027年の打ち上げが見込まれています。
報道によれば、同社は2026年末までに衛星2基(明るさ0.1ルクス〈lux、照度の単位〉を5分間照射)、2027年に36基(2ルクスを2.5時間)、そして2035年までに5万基以上という段階的な拡大計画を示しているといいます。ただし、これはあくまで同社の将来計画であり、実際に軌道上で稼働している反射衛星はまだ1基もありません。
天文学者が鳴らす警鐘、「地上天文学の終わり」との声
この計画に対し、天文学者からは強い懸念の声が上がっています。米プリンストン大学の天体物理学者ガスパー・バコス氏は「きれいな方法などない」と述べ、反射光が目標地点から最大で約30キロメートル先まで広がる可能性があると指摘しています。バコス氏はこれが実現すれば「地上から行う天文学の終わりを意味する」と警告しました。
懸念は光害だけではありません。衛星そのものが肉眼で見ると太陽に近い明るさに見えるため、望遠鏡で観察していたアマチュア天文家が目を痛める危険性も指摘されています。
米科学誌サイエンティフィック・アメリカンの報道では、計画どおり5万基規模の衛星群が実現した場合、夜空全体の明るさが現在の3~4倍になりうるとされています。すでに地球を回る人工衛星の数は、2018年の約2000基から現在は1万6000基超まで増えており、その半数以上を「スターリンク」が占めています。衛星の数自体が急増するなかで、新たな「意図的な光害」が加わろうとしている構図です。
救助隊の本音と、見過ごされた規制の抜け穴
実験には、ボランティア団体「チャイナ・レイク・マウンテン・レスキュー」の捜索救助隊員も加わりました。隊の活動統括者フィリップ・キャッシュ氏は、スポットライトの明るさを「満月より少し明るい程度」と評価し、「日常的な夜間救助のやり方を一変させるものではないが、大規模な災害時には有効かもしれない」と慎重な見方を示しています。
一方で、規制面の抜け穴も指摘されています。報道によれば、同社は米国内の規制プロセスを避けるため、インドの民間宇宙企業スカイルート・エアロスペース社からの打ち上げを計画しているといいます。今回の地上スポットライト実験自体も、人工衛星のような連邦政府の許認可の対象にはなっていませんでした。
環境保護団体アースジャスティスのジャン・ハッセルマン弁護士は、この計画を「馬鹿げた計画」と呼び、何百万年もかけて形作られてきた自然の昼夜のサイクルを乱す恐れがあると警告しています。渡り鳥やコウモリ、ウミガメなど夜行性の生き物が人工光によって行動のタイミングを乱されることは、これまでの光害研究で広く知られており、同様の懸念が今回の計画にも向けられています。
分かっていること、まだ分かっていないこと
現時点で確かなのは、2026年10月10日に地上実験が実施されたこと、そこで観測された明るさや可視距離、そしてFCCが実証衛星1基分の限定的な免許を承認したことです。一方で、実際に軌道上を飛ぶ反射衛星が地上や生態系にどれほどの影響を与えるかは、まだ誰も観測したことがありません。
反射光がどこまで広がるかについても、バコス氏の「最大30キロメートル」という推計と、同社が説明する「対象地域内に収まる」という主張は食い違っています。また、5万基規模の計画が実際に規制当局の承認を得られるのか、事業として採算が取れるのかも不透明です。地上実験に参加した救助隊自身も「有効」と「限定的」の両方の評価を述べており、実用性の評価はまだ定まっていません。
日本ではどうか
今回のリフレクト・オービタルの実験は、日本国内のメディアではまだほとんど報じられていません。ただし、巨大衛星群による光害は日本にとっても無縁の話ではありません。スターリンクなどの衛星は日本上空も通過しており、国内の天文台も夜空の明るさの変化と無関係ではいられません。
日本では、環境省が1998年に「光害対策ガイドライン」を策定し、2021年に改訂しています。地域レベルでは、岡山県井原市(旧美星町)が1989年に施行した光害防止条例が知られています。星空そのものを守る取り組みとしては、西表石垣国立公園が2018年、国際ダークスカイ協会から国内第1号の「星空保護区」に認定されました。
まとめ
今回の実験は、あくまで地上からの試験であり、実際に軌道上で反射衛星が稼働しているわけではありません。それでも、「夜に太陽光を届ける」という構想が現実の一歩を踏み出したことで、光害や天文観測、生態系への影響をめぐる議論は今後さらに大きくなりそうです。
身近なところでできることとしては、自宅や庭の照明を必要な場所だけ下向きに照らすようにし、使わない時間は消灯することが挙げられます。色温度の低い(3000ケルビン以下の)暖色系の光を選ぶことも、夜空への影響を減らす一助になります。
出典:
Hoodline「Mt. Whitney Lights Explained: Reflect Orbital’s Lone Pine Test」