ドイツ南西部の都市シュトゥットガルトが、2026年9月に実施された国際的な一斉消灯キャンペーン「アースナイト(Earth Night)」への参加にあわせ、恒久的な減光対策の成果を発表しました。
同市の公式発表(2026年9月1日付)によると、2022年秋以降の取り組みで、累計570メガワット時(MWh)を超える電力削減に成功しているといいます。
本記事では、この海外発の光害対策の最前線を、具体的な数字とともに読み解いていきます。
「アースナイト」とは——世界が足並みをそろえる一斉消灯
「アースナイト」は、ドイツ発祥で今年で7回目を迎えた国際的な啓発キャンペーンです。
毎年9月に開催され、2026年は9月11日午後10時から、参加者が可能な限り人工的な光源を消灯する取り組みが呼びかけられました。
省エネを呼びかける「アースアワー」と似た仕組みですが、アースナイトは夜空そのものの暗さを取り戻すことに主眼を置いている点が特徴です。
目的は、光害(こうがい、夜間の過剰・不要な人工照明が夜空や生態系、人間の健康に及ぼす悪影響)への関心を高めることと、気候変動対策としての省エネルギーを両立させる点にあります。
シュトゥットガルト市で都市開発・住宅・環境を担当するペーター・ペッツォルト市長は、「アースナイトは、一人ひとりが不要な光害や自らのエネルギー消費について考えるきっかけになってほしい」と述べています。
市はこのキャンペーンを単なる一夜限りの行事として終わらせず、恒久的な制度変更の節目として位置づけている点が注目されます。
恒久的な消灯で570MWh超を削減——数字で見る成果
シュトゥットガルト市が今回のアースナイトにあわせて公表したのは、単発のイベントにとどまらない恒久的な対策の成果です。
エネルギー危機が深刻化した2022年秋以降、市は30超の建物・噴水・記念碑を電力網から恒久的に切り離し、約230メガワット時(MWh)の電力削減を実現しました。
市はこの削減量を「電気自動車で地球を約30周できる電力量に相当する」と説明しており、市民がイメージしやすい表現でアピールしています。
さらに2024年半ば以降は郊外の道路照明の消灯も進め、追加で340メガワット時を削減しました。
合計すると、わずか数年の取り組みで570メガワット時超という規模の電力削減が達成された計算になります。
2027年半ばまでには、人や車の動きを感知するセンサー制御の導入によって、郊外道路の照明をさらに絞り込む計画も進行中です。一時的な節約ではなく、年々削減量を積み増していく設計になっている点が、この取り組みの大きな特徴といえるでしょう。
LED化と2030年目標——照明インフラそのものを変える
公共照明を運営するシュトゥットガルト市のエネルギー会社は、街路灯のLED(発光ダイオード、従来の照明より消費電力が少なく寿命が長い光源)化も並行して進めています。
2025年末時点で、市内街路灯の半数以上がすでにLEDに置き換わりました。
市は2030年までにすべての公共照明設備をLEDへと更新する目標を掲げており、これが実現すれば街路照明の消費電力は1990年比で65%削減される見込みです。単発の節電イベントではなく、インフラ更新という形で恒久的な省エネ効果を積み上げていく戦略が読み取れます。
実は同様の動きはドイツ国内にとどまりません。
オーストリアの首都ウィーンでも、街路照明による光害が2015年比で約75%減少したとの調査結果が報告されており、LED化と運用の見直しがヨーロッパの都市インフラ全体で進んでいることがうかがえます。
昆虫に優しい光とセンサー制御という「次の一手」
シュトゥットガルト市が試験段階として進めているのが、人間には見えつつ昆虫への影響をできるだけ抑えた光のスペクトル(波長ごとの光の強さの分布)の実証実験です。
従来の白色LED照明は青色成分を多く含み、虫の走光性(光に引き寄せられる性質)を強く刺激することが知られています。
あわせて、歩行者や自転車、車の接近を検知して明るさを自動調整するセンサー制御の街路灯も試験導入されています。
常時明るく照らすのではなく必要な時だけ明るくする「オンデマンド型」の照明は、防犯性を維持しながら光害と電力消費の両方を抑える現実的な解決策として注目されています。
こうした技術は初期投資こそかかるものの、長期的には電力コストと生態系への負荷を同時に下げられる点で、自治体にとって導入のハードルが下がりつつあります。
なぜ地道な自治体施策が光害対策の鍵を握るのか
シュトゥットガルトの事例が示すのは、光害対策が大規模な法規制だけでなく、自治体レベルの地道な積み重ねでも大きな効果を生むという点です。
1つ1つの建物の消灯や道路照明の調整は小さな取り組みに見えますが、数年単位で継続することで、数百メガワット時という無視できない規模の削減につながっています。
また、エネルギー危機をきっかけに始まった対策が、気候変動対策と光害対策という2つの課題を同時に解決する政策として定着しつつある点も注目に値します。
実際、2022年のエネルギー危機時には、パリがエッフェル塔などのランドマーク照明を午後10時以降に消灯するなど、ヨーロッパ各都市で同様の動きが相次ぎました。
シュトゥットガルトの事例は、こうした危機対応の節電策を一過性で終わらせず、環境政策として恒久化した点に意義があります。節電と生態系保護、夜空の保全を切り離さずに語る姿勢は、他国・他都市の政策立案にも参考になるでしょう。
豆知識——日本の光害対策との接点
日本でも光害対策は着実に進んでいます。環境省は「光害対策ガイドライン」を策定し、必要な場所に必要な量だけ光を届ける照明設計を自治体や事業者に促しています。
岡山県井原市は、天文台周辺の夜空を守るための光害防止条例を独自に制定している自治体として知られています。
さらに沖縄県の西表石垣国立公園は、国際的なダークスカイパーク(星空の美しさが一定の保護基準を満たす地域に与えられる国際認定制度)に認定されており、星空観光と生態系保護を両立させる好例となっています。
シュトゥットガルトのようなセンサー制御や恒久消灯の取り組みは、こうした日本の取り組みにも応用できる視点を提供してくれます。
まとめ
シュトゥットガルト市の事例は、光害対策が特別なイベントだけでなく、日常の照明インフラの見直しによって着実に前進できることを示しています。
570メガワット時超の削減実績と2030年のLED化完了目標という具体的な数字は、他都市にとっても説得力のある指標となるでしょう。
昆虫に優しい光のスペクトルやセンサー制御といった次世代の技術が普及すれば、防犯性や利便性を損なわずに夜空を取り戻せる可能性が広がります。
日本の自治体や私たち個人の照明の使い方を見直すきっかけとしても、この事例は示唆に富んでいます。