出典: NASA Goddard Space Flight Center(NOAA国立地球物理データセンターのデータを使用)。パブリックドメイン。
オーストラリア南部、マレー川流域に広がる「リバーマレー国際ダークスカイ保護区」は、2019年に国際ダークスカイ協会(DarkSky International、夜空の暗さを守る国際団体)から最高評価の「ゴールド」認定を受けた、オーストラリア初の国際ダークスカイ保護区です。そのすぐそばで、出力1,200メガワットという巨大なAIデータセンターの建設計画が浮上し、住民が光害や騒音への懸念を強めています。オーストラリア放送協会(ABC News)が2026年10月27日に報じました。
「ゴールド」認定を受けた星空保護区
リバーマレー国際ダークスカイ保護区は、アデレードから車で約90分の場所に広がる、約3,200平方キロメートルに及ぶ保護区です。コアとなるスワン・リーチ自然保護公園では、夜空の暗さを測る機材「SQM(Sky Quality Meter)」で21.9〜21.99等級という記録が出ています。SQMは数値が大きいほど夜空が暗いことを示す指標で、22前後は地球上でもきわめて限られた、光害のほとんどない空とされます。
2019年10月に国際ダークスカイ協会の認定を受けた当時、世界でも十数カ所しかなかった国際ダークスカイ保護区の一つでした。オーストラリアでは2016年に「ダークスカイ・パーク」となったニューサウスウェールズ州ワランバンギー国立公園に続く、より広域の保護指定です。認定後、地域では街灯や防犯灯を遮光型に切り替えるなど、暗さを保つための取り組みが続けられてきました。天文家にとっては観測の場であるだけでなく、渡り鳥やコウモリなど夜行性の生物にとっても、暗い夜が保たれていることが生態系の基盤になっています。
1,200メガワットのデータセンター計画
保護区の境界内にある人口の少ない町、タンキロで計画されているのが「Tungkillo Compute and Energy Hub」です。メルボルンに拠点を置く企業Quantum DCが主導し、最高経営責任者のアルビー・トマッシ氏によれば、アデレードの東約55キロ、丘陵地帯にある約220ヘクタールの用地に、出力1,200メガワット規模の施設を建設する計画です。1,200メガワットは、一般的な大型原子力発電所1基分に近い出力規模にあたり、生成AIの計算需要を支える「ハイパースケール」データセンターとして計画されています。
同社は、既存のエネルギー網や建設中の再生可能エネルギー事業に近い点を立地選定の理由として挙げ、建設・運用の両段階で数百人規模の雇用が生まれると説明しています。一方で、正式な開発申請はまだ州政府に提出されておらず、現時点では構想段階です。背景には、生成AIの普及に伴って世界各地で進む大規模データセンターの建設ラッシュがあり、オーストラリアでも電力・水・騒音への影響をめぐる議論がすでに各地で起きています。星空保護区という、光そのものの暗さを資源とする土地での計画は、その摩擦の新しい形といえます。
住民が恐れる「光」と「音」
地元住民のマグダレン・リペット氏らは、この地域の景観と暗い夜空を守りたいと訴えています。ハイパースケールのデータセンターは24時間稼働が前提で、敷地内の保安灯や設備の表示灯、冷却設備の稼働音などが夜間も止まりません。丘陵地帯であるこの一帯は音が遠くまで伝わりやすく、非常用発電機の稼働音が周辺の家庭や家畜に影響するのではないかという懸念も出ています。
ミッド・マレー議会のシモーン・ベイリー議長は、立地そのものに懸念があると述べつつ、住民説明会を経たうえで正式な立場を決めるとしています。Quantum DCは正式申請の前に、地域向けの説明会を2回開く予定で、交通・騒音・大気質・照明・水・動植物・先住民の文化遺産・山火事リスクについて専門調査を進めているとしています。州政府はまだ正式な開発申請を受け取っておらず、申請の際にはエネルギー・水・冷却・周辺影響への対応策を示す必要があるとしています。
「境界から5キロ」は十分な距離か
Quantum DCは、計画地が保護区の境界から5キロ以上離れていると説明しています。しかし、この距離が光害の懸念を十分に解消するかどうかは別の問題です。
分かっているのは、人工光が夜空を照らす「スカイグロー(光が大気中のちりや水分に散らばって夜空全体を明るくする現象)」が、照明そのものが直接見える範囲よりずっと広がりうるという点です。国際ダークスカイ協会が保護区の設計で光源と境界の間に「緩衝地帯(バッファーゾーン)」を重視するのも、単純な距離だけでは影響を防ぎきれない場合があるためです。都市の明かりが数十キロ先の夜空まで明るくしている例は、世界各地の光害研究でも報告されています。
一方、まだ分かっていないことも多くあります。タンキロの施設で具体的にどのような照明設計や遮光対策が取られるのかは、正式申請前の現時点では公表されていません。実際にスカイグローとしてどの程度保護区に影響するかは、今後提出される専門調査の結果を見るまでは判断できません。保護区のコアサイトからの実際の距離や、丘陵地形が光をどう遮る、あるいは反射させるかによっても、影響の度合いは変わってくるとみられます。
こうした不確実性があるからこそ、専門家の間では、開発計画の初期段階から夜間の照明計画を独立した調査対象とすべきだという意見が出ています。星空保護区の価値は、境界線の内側だけで守れるものではなく、周辺一帯の照明のあり方全体にかかっているためです。
日本ではどうか
同様の問題は、日本にも無縁ではありません。環境省は照明の工夫によって夜空を守るための「光害対策ガイドライン」を策定しています。岡山県井原市(旧美星町)は1989年、日本で初めて「美しい星空を守る美星町光害防止条例」を制定した自治体です。また西表石垣国立公園は2018年、国際ダークスカイ協会から日本で初めての星空保護区として暫定認定を受けました。いずれも、リバーマレー保護区と同じように、地域ぐるみで屋外照明を見直す取り組みが土台になっています。日本国内でも生成AI需要を背景にデータセンターの建設が各地で相次いでおり、星空保全の現場と開発計画が今後どこかで同じようにぶつかる可能性は十分にあります。
まとめ
リバーマレー国際ダークスカイ保護区の計画は、巨大施設が周辺の星空環境にも影響しうることを示しています。正式な開発申請はまだ提出されておらず、影響の程度は今後の調査次第です。身近でも夜空を守るためにできることがあります。
- 屋外照明は、必要な場所だけを照らすように向きを調整する
- 色温度の低い(暖色系の)LED照明を選ぶ
- 使わない時間帯は消灯する、またはセンサーを活用する