今回ご紹介するのは、イタリア発の話題です。世界最大級の家具見本市「ミラノサローネ(Salone del Mobile.Milano)」の公式メディア「Salone Milano」が、照明見本市「Euroluce」にあわせて、光害(ひかりがい、人工照明による夜空の明るさの増加やその悪影響)と都市デザインをテーマにした記事を掲載しました。
デザインの視点から光害を捉えたこの記事の内容を、日本の状況も交えてご紹介します。
LED化がもたらした「リバウンド効果」
記事はまず、都市の夜間照明が増加し続けている現状を指摘しています。
LED照明への切り替えによって、消費電力あたりの発光効率は大きく改善しました。
ところが実際には、省エネになった分だけ「もっと多くの場所を、もっと明るく、もっと長時間照らそう」という使い方が広がり、結果として夜間に照らされる総量はむしろ増えてしまったといいます。
これは環境政策の分野で知られる「リバウンド効果(省エネ効果が、利用量の増加によって相殺・逆転してしまう現象)」の一例です。
照明の効率化そのものは光害対策に直結しない、という指摘は、技術的な改善だけでは解決しない根深い課題を示しています。
照明デザイナーが問う「何をしないか」という発想
記事で紹介されているのは、照明デザイナーのキアラ・カルッチ氏です。
夜間照明のデザインに20年以上携わり、米国のダークスカイ団体DarkSky Internationalが新設した「ワイルドライフ・ナイト・ウォッチ・アワード」の初代受賞者でもあります。
カルッチ氏は、照明器具に「何ができるか」ではなく、「何をしないよう求めるべきか」を問うことが重要だと主張します。
装飾照明の市場では「光が多いほど安全・快適につながる」という前提がよく見られますが、これは必ずしも正しくないといいます。
- 過度な明るさは、目が暗がりに順応しづらいほどの強いコントラストを生む
- グレア(眩しさによる視界のかすみ)は視野を狭め、むしろ危険を見えにくくする
- 人が屋外で安心を感じられるかどうかは、光の量ではなく、周囲の状況を見通せること(環境心理学で「prospect(見通し)」と呼ばれる概念)で決まる
つまり、「明るくすればするほど安全になる」という直感的な発想自体が、見直しを迫られているというわけです。
夜は背景ではなく、生態系そのもの
記事は、夜間照明の影響を人間だけの問題として捉えていません。
夜は単なる「暗い背景」ではなく、それ自体が一つの生息環境だと位置づけています。
例えば植物は、人工光を昼間と誤認し、体内の生物時計(概日リズム)が乱れることがあります。
渡り鳥や夜行性の花粉媒介者(蛾などの昆虫)は、人工光によって進路を乱され、その影響は食物連鎖を通じて生態系全体に広がっていきます。
興味深いのは、「野生生物に優しい」とされがちなアンバー色・赤色系の光についての指摘です。
これらの色は昆虫や鳥類への影響を比較的抑えられるとされますが、暗闇に適応して進化したコウモリのような種にとっては、決して無害(中立)とは言えないとされています。
光の色を変えるだけでは、すべての生物への影響を解決できないということです。
現場発の2つの実践例
記事では、デザインによって光害を抑えた具体的な事例が2つ紹介されています。
スウェーデン・エスキルストゥーナでは、市内で最も暗い場所である川沿いを出発点とし、人の活動に本当に必要な範囲だけ光を広げていく「リップル効果(波紋のように、必要な場所から段階的に光を広げる考え方)」の手法で公共空間が再整備されました。
その結果、人にとって分かりやすく快適な空間が生まれただけでなく、渡り鳥や水生生物への被害も減らすことができたといいます。
もう一つは、EUの「LIFE Turtlenest」パイロットプロジェクトです。
アカウミガメ(Caretta caretta)の孵化した子ガメは、本来月明かりなど自然の光を頼りに海へ向かいますが、沿岸部の人工光に惑わされて内陸側へ迷い込んでしまうことがあります。
このプロジェクトでは、高価な新技術を導入するのではなく、既存の景観を丁寧に読み取りながら現場に合わせて照明を調整し、観光客にとっても子ガメにとっても良好なビーチ環境を実現しました。
補足:「カーブカット効果」としての夜間デザイン
記事の結論部分では、「カーブカット効果(curb-cut effect)」という考え方が引用されています。
これはもともと、車椅子利用者のために歩道の段差をなくす(カーブカット)工事を行うと、結果的にベビーカー利用者や高齢者など、より多くの人にとって暮らしやすくなるという、米国の社会政策分野で使われる概念です。
夜間照明の設計でも同様に、グレアや強いコントラストの影響を特に受けやすい高齢者や視覚に障害のある人を基準に設計を見直すと、光漏れの減少や天空光(夜空に漏れ出す光)の抑制、概日リズムへの影響の軽減にもつながり、結果として誰にとっても優れた照明になるといいます。
まとめ
LED化という技術的な進歩だけでは光害は解決せず、むしろ使い方次第で逆効果になりうること、そして「何を照らすか」だけでなく「何を暗いままにしておくか」を問うべきだという視点は、建築や都市計画に携わる人々にとっても示唆的な内容です。
日本でも今後、観光地のライトアップや景観照明の計画において、こうした「最小限の光でどう人と生態系を両立させるか」という発想がより重視されるようになるかもしれません。