Image Credit: NASA
以前の記事で衛星の光害を減らす「超黒コーティング」技術をご紹介しましたが、今度は真逆の発想を持つ計画が物議を醸しています。日没後の地上に太陽光を届けるための巨大な宇宙ミラーを、民間企業が打ち上げようとしているのです。しかも、こうした計画を止める国際的な仕組みは、事実上存在しないといいます。
本記事は、Space.comの報道をもとにご紹介します。
「日没後も太陽光を」宇宙ミラー計画とは
米カリフォルニア州の企業リフレクト・オービタルは、日没後の太陽光発電所に向けて太陽光を反射させる技術を検証するため、18メートル四方(59×59フィート)の試験用ミラー衛星を打ち上げる計画を進めています。
米連邦通信委員会(FCC)は2026年7月10日、数百件の反対意見が寄せられていたにもかかわらず、この計画を承認しました。同社は将来的に、こうしたミラー衛星を最大5万基にまで拡大したコンステレーション(衛星群)の展開を検討しているとされています。
軌道上データセンターという新たな野望
似たような野心を持つのは、この企業だけではありません。SpaceX、ブルーオリジン、Starcloudといった企業も、軌道上データセンターやインターネット配信を目的とした大規模な衛星群の展開許可を、FCCに申請中です。
地上のデータセンターが光害や騒音で住民との軋轢を生んでいることは以前の記事でご紹介した通りですが、その「解決策」として、コンピューティング施設そのものを宇宙上に移してしまおうという発想が、現実の申請として動き出しているのです。
なぜFCC一つの判断で決まってしまうのか
なぜ、これほど大規模な計画がFCC一つの判断で進んでしまうのでしょうか。実は米国の衛星産業は、1980年代に定められた国家環境政策法(NEPA)の対象から外れており、FCCも衛星企業も、打ち上げが環境に与える影響を証明する義務を負っていません。
DarkSky Internationalの最高経営責任者ラスキン・ハートリー氏は、この状況を「技術が規制環境をはるかに上回ってしまっている」と表現しています。
1967年宇宙条約の「穴」
国際的な歯止めも十分に機能していません。1967年に採択された宇宙条約は、衛星が引き起こす物理的な損害についてのみ責任を規定しており、光害のような「光学的な干渉」は対象外と解釈される傾向にあります。
国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)などの国際機関も、議論の場を提供するにとどまり、全会一致を前提とするため実行力のある強制メカニズムを持ちません。元NASA法務官のロビン・J・フランク氏は、米国が国際的な拘束力のある枠組みへの同意には歴史的に消極的だったと指摘しています。ブリティッシュコロンビア大学の天文学者アーロン・ボーリー氏も、一つの国の判断が世界中の空と軌道環境を大きく変えてしまう構造的な課題を認めています。
夜空の明るさ、最大300%増加の可能性
欧州南天天文台(ESO)の試算によれば、現在計画されている衛星コンステレーションがすべて展開された場合、夜空の明るさは最大300%増加する可能性があるといいます。
懸念されているのは光害だけではありません。大気圏に再突入する衛星から放出される物質がオゾン層を損なう恐れや、野生動物の行動撹乱、ロケット打ち上げ・製造に伴う温室効果ガス排出など、複合的な環境影響が指摘されています。以前の記事で紹介した超黒コーティングのような技術的解決策は重要な一歩ですが、今回の件が示すのは、技術以上に「誰がどう判断し、誰が責任を負うのか」という制度設計そのものが問われているという現実です。
便益とコストは誰が負うのか
リフレクト・オービタルが目指す太陽光発電所への光の反射は、再生可能エネルギーの効率化という観点からは魅力的な発想でもあります。しかし、その恩恵と引き換えに、世界中の誰もが同じ夜空を見上げられなくなる可能性があるとすれば、便益とコストを誰がどう配分すべきかという、簡単には答えの出ない問いが残ります。
まとめ
技術の進歩が規制の整備を追い越してしまうという構図は、光害問題に限った話ではありませんが、宇宙という誰の所有物でもない領域だからこそ、その空白がより深刻な形で表れています。
星空という人類共通の資産をどう守るか、国際的な合意形成が技術開発のスピードに追いつけるかどうかが、これからの大きな課題になりそうです。
出典: Space.com「Private companies could ruin the night sky for the entire world, and international law can’t stop them」をもとに作成。