Image Credit: Federal Highway Administration
全会一致で成立、幹線道路の照明に遮光義務
光害対策というと街や住宅地の照明が話題になりがちですが、米ケンタッキー州では、農地を光害から守るための新しい法律が2026年4月に成立しました。
人間の生活だけでなく、作物や家畜にも人工光が影響を及ぼすことに着目した、これまでとは一味違う切り口の法律です。
本記事は、Northern Kentucky TribuneやLane Reportなどの報道をもとにご紹介します。
下院98対0、上院37対0の全会一致
今回成立したのは、通称HB 571、正式名称「光害に関する法律であり、緊急事態を宣言するもの」です。
ケンタッキー州下院議員キム・ハロウェイ氏(メイフィールド選出)が提出したこの法案は、2026年2月5日に下院に提出されると、下院で98対0、上院で37対0という、両院そろっての全会一致で可決されました。
同年4月13日に知事の署名を経て第130章の法律として成立し、成立を急ぐための緊急条項も適用されています。これほど幅広い支持を集めた背景には、超党派で共有される農業保護という価値観があったとみられます。
幹線道路の照明に完全遮光を義務化
法律の柱となるのは、州運輸局(Transportation Cabinet)が管理する幹線道路の屋外照明について、隣接する営農中の農地への光の漏れ出しを防ぐため、完全な遮光を義務づけるという内容です。
あわせて、工事などで一時的に強い照明が必要な場合の遮光義務の猶予期間を、従来の10日間から30日間に延長。建設プロジェクト中に限って認められる照明使用の許容期間についても、30日間から180日間に延長したうえで、使用しない時間帯は消灯することを新たに義務づけました。柔軟性を持たせつつも、無駄な照明を減らす方向性を明確にした制度設計だと言えます。
なぜ農地に光害が問題なのか:光周性というメカニズム
なぜ農地への光害がこれほど問題視されるのでしょうか。背景にあるのが光周性(こうしゅうせい)という現象です。これは、日照時間の長さの変化を手がかりに、植物が開花や休眠などの生育サイクルを調整する仕組みを指します。
以前の記事でご紹介した「光害と花粉症」の研究でも触れた通り、夜間の人工光は植物に「まだ昼が続いている」と誤認させ、本来の生育リズムを狂わせてしまう可能性があります。幹線道路沿いの農地では、通行車両向けの照明が意図せず作物や家畜にまで影響を及ぼしてしまうケースが、これまで見過ごされてきたのです。
1日300エーカーが失われる農地事情
ケンタッキー州では、こうした農地への影響に加えて、1日あたり約300エーカー(東京ドーム約26個分に相当)もの農地が失われ続けているという、より大きな構造的課題も抱えています。
都市開発や道路整備が農地を侵食していく中、せめて残された農地への光害だけでも抑えようという今回の法律は、農地保全という観点からも意味を持つ取り組みだと言えるでしょう。光害対策と農業政策という、一見異なる分野が交差した点が、今回の法律のユニークなところです。
人よりも植物・家畜に焦点を当てた異色の法律
これまでの記事では、都市の街灯、州レベルの照明基準、データセンターなど、人が集まる場所を中心とした光害対策を紹介してきましたが、今回のケンタッキー州の事例は、人よりも植物や家畜への影響に焦点を当てている点で異色です。
光害対策の議論が、天文学・生態系・人間の健康にとどまらず、農業という基幹産業の保護にまで裾野を広げつつあることを示す好例と言えます。全会一致という異例の支持を集めたことも、光害対策が特定の立場やイデオロギーを超えて受け入れられつつあることを物語っているのかもしれません。
ハウス栽培との対比で見えてくること
光周性は、稲や大豆をはじめとする多くの主要作物の開花タイミングを左右する重要な要素です。農業分野では古くから、ビニールハウス栽培などで人工的に日照時間をコントロールし、開花や収穫時期を調整する技術が使われてきました。
今回の法律は、その裏返しとして「意図しない人工光による生育リズムの乱れ」を防ごうとする試みだと理解すると分かりやすいかもしれません。
まとめ
ケンタッキー州のHB 571は、光害対策の対象を人間の生活圏から農地にまで広げた、興味深い事例です。全会一致という異例の支持のもとに成立したこの法律は、光害問題が特定の分野に限らず、社会のさまざまな場面に関わっていることを改めて示しています。
星空を守るための取り組みが、今度は食卓を支える農業をも守る一歩になっているのです。
出典: Northern Kentucky Tribune、Lane Report各紙の報道、およびケンタッキー州議会HB 571の議事録をもとに作成。