今回ご紹介するのは、英国(イギリス)発の話題です。米国の法律系メディア「The National Law Review」が伝えたところによると、庭にイルミネーションやガーランドライトを飾るご家庭が近年ますます増える中、英国の装飾照明メーカーFestive Lightsが、「庭の照明を楽しみながら、夜空や野生生物、ご近所への影響をどう減らすか」をまとめたガイドラインを公表しました。
国際的な光害(こうがい、人工照明による夜空の明るさの増加やその悪影響)対策指針と英国の法規制の両方を踏まえた、家庭でもすぐ実践できる内容です。本記事ではその要点に加え、日本の状況も交えてご紹介します。
なお、この話題はもともとプレスリリース配信サービス「EIN Presswire」(企業や団体が作成したプレスリリースをそのまま配信する、米EIN News社が運営する国際的な配信網)を通じて発信されたもので、The National Law Reviewはこれを記事として取り上げる形で紹介しています。第三者の取材記事ではなく、企業発信の情報である点を踏まえてお読みください。
なぜ今、庭の照明が注目されているのか
今回ガイドラインを公表したFestive Lightsは、英国イングランド北西部チョーリーに拠点を置く、屋内外の装飾照明を専門に扱う企業です。連結式のLEDストリングライトやフェストゥーンライト(電球を連ねたガーランド照明)、ソーラー式・電池式の照明、スマホ連動のスマート照明などを、一般家庭からプロの施工業者まで幅広く手がけており、創業から20年以上の実績を持ちます。
そのFestive Lightsによると、家庭用の屋外照明が急速に広がった背景には、いくつかの要因があります。LEDなどの照明機材の低価格化、低電圧・ソーラー式システムの普及、そして庭を「室内の延長」として活用するライフスタイルの浸透です。設置される照明の量そのものが増えただけでなく、点灯している時間も長くなっているといいます。
一方で、光害への社会的な関心も同時に高まっています。夜空の明るさを観測・記録する団体の報告では、多くの人が自宅周辺からはごくわずかな数の星しか見られない状況にあるとされ、英国政府のガイドラインでも、人工光は人への迷惑、野生生物への脅威、そして田園や夜空を楽しむ機会を損なう要因になりうると位置づけられています。
「屋外照明の5原則」を庭にあてはめる
ガイドラインの土台となっているのが、国際的な光害対策NPO・DarkSky International(旧IDA)が照明学会(Illuminating Engineering Society)と共同で策定した「責任ある屋外照明の5原則」です。これは家庭の庭の照明にもそのまま応用できる内容です。
- 目的があること:明確な役割のない照明は、そもそも設置を見直す候補になる
- 狙った場所だけを照らすこと:シェード(遮光カバー)を使い、光を下向きに絞ることで、不要な範囲への漏れを防ぐ
- 必要以上に明るくしないこと:用途に見合った最小限の明るさにとどめる
- 必要な時だけ点灯すること:タイマーやセンサー、調光機能で、常時点灯を避ける
- 暖色系の光を選ぶこと:青みの強い寒色系ではなく、暖かみのある色温度の光を選ぶ
Festive Lightsの屋外照明専門家、ジャナ・ダルトン氏は次のように述べています。
「これらの原則はシンプルで、ほとんどはお金をかけずに実践できます。光害の多くは、必要以上に明るい照明、誰もいないのに点灯したままの照明、そして光を上や外に向けて漏らしてしまう向きの誤りから生じています。明るさ・制御・向きという3点を見直すだけで、家庭でできる改善のほとんどをカバーできますし、それでいて装飾照明そのものを諦める必要はありません。」
色温度の選び方 — 暖色系(2700K以下)が鍵
ガイドラインが特に詳しく取り上げているのが、光の色味を示す「色温度(相関色温度、CCT)」です。単位はK(ケルビン)で表され、数値が低いほど暖かみのあるオレンジ寄りの光、数値が高いほど青白い光になります。
ダークスカイ団体の指針では、屋外照明は3000K以下、野生生物の生息地に近い場所ではより暖色寄りの2700K以下が推奨されています。4000K以上の寒色系の光は青色光を多く含み、夜空の明るさ(スカイグロー)への影響が大きいだけでなく、野生生物や人間の睡眠リズムへの悪影響も指摘されているためです。
実は、家庭用のイルミネーションやガーランドライトの多くは、もともと雰囲気重視で2200K〜2700K程度の暖色系(ウォームホワイト)が主流です。つまり、多くのご家庭で「見た目の好み」として選ばれている色味が、そのまま光害対策の推奨値とも一致しているというわけです。色が変えられるタイプの照明であれば、日常使いは暖色系の設定にしておくとよいでしょう。
タイマー・センサー・向きで「点灯時間」と「漏れ」を減らす
照明を「必要な時だけ」使うための具体的な手段として、ガイドラインは3つの制御方法を挙げています。
- タイマー:設定した時間で自動消灯し、一晩中つけっぱなしになるのを防ぐ
- 人感センサー(PIRセンサー):人の動きを検知した時だけ点灯。防犯・機能用の照明に向いている
- 薄暮センサー(ライトセンサー):日没とともに自動点灯するが、これ単体では消灯タイミングを決められないため、タイマーと組み合わせて使うのが望ましい
Festive Lightsのゼネラルマネージャー、スティーブン・アルティ氏はこう語ります。
「多くのご家庭にとって、最も効果的なのは点灯時間そのものを短くすることです。夕方から就寝前まで灯すディスプレイと、毎晩明け方までつけっぱなしのディスプレイとでは、影響の大きさがまったく違います。タイマーやセンサーを使えば、こうしたコントロールを自動化でき、責任ある使い方を『覚えておく』必要がなくなります。」
光の向きも重要なポイントです。光を下向きに絞り、境界線や窓の方向を避けて設置することで、隣家への「光害漏れ(ライトトレスパス)」と、空へ漏れる光の両方を減らせます。地面近くを照らすパスライトや縁取りライトは、高い位置や上向きの照明に比べてもともと漏れにくい形式とされています。明るさについても、単体の強い光源よりも、低出力の光源をいくつか組み合わせる方が、漏れが少なく均一な仕上がりになるといいます。
野生生物への影響
ガイドラインでは、人工光が野生生物に与える影響についても、英国の研究機関の知見をもとに紹介しています。英国生態・水文学センター(UK Centre for Ecology and Hydrology)は、過剰な光が動物・鳥・昆虫・植物にとって利用可能な生息環境を分断し、行動や生理機能に影響を与えると指摘し、昆虫や鳥類の個体数減少の一因にもなっているとしています。昆虫は人工光に引き寄せられることで採餌や繁殖行動が乱され、その影響は食物連鎖にも及びます。
特に影響を受けやすいのがコウモリです。自然史博物館やコウモリ保護団体の調査によれば、多くのコウモリの種が照明のあるエリアを避けること、ねぐらの出入り口付近の照明がコウモリの活動開始を遅らせ採餌時間を減らすこと、一部の種は照らされた地上を避けて飛行ルートを変えることなどが報告されています。鳥類も人工光下で日周リズムが乱されたり活動時間が延びたりするほか、渡り鳥が人工光によって方向感覚を失う例も知られています。
ご近所トラブルと英国の法規制
ガイドラインでは、英国における法的な位置づけにも触れています。
英国では2005年の近隣環境法(Clean Neighbourhoods and Environment Act)により、1990年環境保護法が改正され、2006年4月から住宅などから発せられる人工光が「制定法上の迷惑行為(statutory nuisance)」の対象に含まれるようになりました。
ある光が迷惑行為とみなされるには、不合理かつ実質的に他者の生活を妨げているか、健康に有害であることが要件となり、空港や港湾、一部のスポーツ施設などは適用除外とされています。自治体は苦情を受けて調査する義務を負い、迷惑行為が認められれば改善命令を出すことができます。
もっとも、多くの自治体のガイダンスが一貫して勧めているのは、まずは当事者間で直接話し合うことです。多くの照明トラブルは、所有者が「まぶしい」と気づいていない設置ミスに起因しており、向きの調整など簡単な対応で解決できるケースが少なくないためです。
生態系への影響を減らす対策(遮光・正しい向き・点灯時間の制御)が、そのままご近所への光害漏れを防ぐ対策にもなるという点は、日本の住宅事情にも通じる部分があるのではないでしょうか。
日本の現状と取り組み
では、日本ではこうした「家庭の照明による光害」はどう扱われているのでしょうか。
環境省は1998年に「光害対策ガイドライン」を策定し、2021年には最新の知見を反映した改訂版を公表しています。このガイドラインでも、照明を必要な場所・時間・明るさに絞り込むという考え方は、今回のFestive Lightsのガイドラインとほぼ共通しています。ただし英国の「制定法上の迷惑行為」のように、人工光そのものを直接規制する全国一律の法律は日本にはなく、深刻なケースは民法上の一般的な不法行為(近隣への受忍限度を超える迷惑行為)として扱われるのが基本です。
一方、自治体レベルでは先進的な取り組みも見られます。岡山県井原市(旧・美星町)は1989年に全国に先駆けて「光害防止条例」を制定したことで知られ、星空保護区としての取り組みを続けています。また沖縄県の西表石垣国立公園は、DarkSky Internationalから「国際ダークスカイパーク」の認定を受けた、日本を代表する星空保護エリアのひとつです。
家庭の庭のイルミネーションに関しては、日本でも冬場を中心に個人宅での装飾照明(いわゆる「電飾」)が広く親しまれていますが、色温度や点灯時間をダークスカイの観点から意識する動きはまだ限定的です。今回紹介したような「暖色系を選ぶ」「タイマーを使う」「下向きに設置する」といった工夫は、法規制の有無にかかわらず、日本の家庭でもそのまま取り入れられる実践的なヒントといえるでしょう。
まとめ
Festive Lightsのガイドラインが強調しているのは、装飾照明そのものをやめることではなく、「防犯」「安全」「庭を楽しむ」といった照明本来の目的を保ちながら、環境への影響を減らす工夫です。
暖色系の光を選ぶ、タイマーやセンサーで点灯時間を絞る、光を下向きに正しく向ける — いずれも大きな出費をかけずに実践できる対策ばかりです。今年のイルミネーションシーズンに向けて、ご自宅の庭の照明を少し見直してみるのもよいかもしれません。