英国スコットランドのハイランド地方議会(Highland Council)が、星空観察者によりクリアな夜空を届けることを目的とした、光害(ひかりがい、人工照明による夜空の明るさの増加やその悪影響)対策の指針案を策定したことが、BBCニュースで報じられました。
屋外照明を抑えることには、夜空を守る以外にもCO2排出量や電気代の削減といった効果もあるといいます。
本記事では、この指針案の内容と、ハイランド地方が誇る「ヨーロッパ屈指の暗い夜空」について紹介します。
大規模開発には「照明アセスメント」を義務化
今回の指針案の柱となるのが、光害がほとんど、あるいはまったくない場所を指す「ダークスカイサイト(Dark Sky Site)」の保護です。
指針案では、ダークスカイサイトの内部や近隣で大規模な開発を計画する建設業者に対し、外灯設置の必要性を正当化するための「照明アセスメント(lighting assessment、周辺環境への光の影響を事前に評価する手続き)」の実施を義務付けています。
また、星空観察の拠点を新たに整備したいと考える地域コミュニティを支援する内容も盛り込まれています。
ハイランド地方議会の担当者は報告書の中で、指針案の狙いを次のように説明しています。
「(照明を必要最小限に抑えることで)環境面では二酸化炭素排出量の削減や人・野生生物への悪影響の低減、財政面では電気使用量・電気代の削減、観光面では夜空を楽しむ来訪者の体験価値の維持・向上といった効果が期待できます。」
期待されるメリットは環境・経済・観光の3方向
指針案が目指すのは、安全・防犯上必要な範囲を超えた屋外照明を減らす「ベストプラクティス」の普及です。想定されるメリットは多岐にわたります。
- 環境面:CO2排出量の削減、人体や野生生物への悪影響の低減
- 財政面:電気使用量および電気代の削減
- 観光面:星空観光としての魅力向上、来訪者の満足度維持
具体的な対策としては、街路灯そのものを減らすだけでなく、樹木の植栽やフェンスの設置によって光のグレア(まぶしさ・散乱光)を遮るといった手法も提案されています。
建物や道路の設計段階で緑地帯を組み込むことで、照明を大きく削減せずとも周辺への光漏れを抑えられるというわけです。
一方で、指針案の策定にあたり議会側は、防犯・安全上の理由から屋外照明の維持を望む住民がいることも認めています。
光害対策と安全確保をどう両立させるかは、今後の公開協議でも焦点になりそうです。
ハイランド地方はヨーロッパ屈指の「暗い夜空」
ハイランド地方議会はこれまでも、人口密度が低く広大な土地を持つ同地方について、「ヨーロッパでも屈指の暗い夜空を持つ地域」だとアピールしてきました。
その象徴といえるのが、ハイランド地方議会の管轄区域にある離島ラム島(Isle of Rum)です。
ラム島は2024年、国際的な光害対策NPOであるDarkSky Internationalによって、スコットランド初の「国際ダークスカイ・サンクチュアリ(International Dark Sky Sanctuary)」に認定されました。ダークスカイ・サンクチュアリは、DarkSky Internationalが定める夜空保護区分の中でも特に厳しい基準をクリアした、地球上でもとりわけ人里離れた暗い場所に与えられる称号です。
今回の指針案は、こうした既存の「暗い夜空」という地域資源を、開発計画のルールとして制度的に守っていこうとする試みだといえます。
今後のスケジュール
この指針案は、来週開催される議員による会議で承認が諮られる予定です。承認されれば、その後パブリックコンサルテーション(住民や事業者からの意見公募)にかけられ、最終版が作成される流れとなります。
さらにこの指針は、来年公表が予定されている「ハイランド地方開発計画(Highland Local Development Plan、略称HLDP)」の一部に組み込まれる可能性があります。
HLDPは、住宅地やその他の開発用途として地域内のどのエリアを利用するかを定める、地方自治体の土地利用計画です。
指針案がHLDPに正式に組み込まれれば、光害対策は将来のあらゆる開発計画において考慮すべき法的拘束力を持つ基準になっていくことになります。
ダークスカイ認定制度について
DarkSky International(旧IDA、International Dark-Sky Association)は、1988年に設立されたアメリカの国際NPOで、世界各地の光害の少ない地域を「ダークスカイ・パーク」「ダークスカイ・コミュニティ」「ダークスカイ・サンクチュアリ」などに認定する活動を行っています。
認定地域は星空観光の目的地としても人気が高く、地域経済の活性化につながる例も増えています。日本国内では西表石垣国立島などが認定を受けています。
スコットランドのハイランド地方は、都市化が進む多くの地域とは対照的に、広大で人口の少ない土地を活かして「暗い夜空」という資源を守ろうとしています。
今回の指針案が最終的にどのような形で承認されるのか、そして日本を含む他地域の光害対策にどんなヒントを与えてくれるのか、今後の動向にも注目です。