毎年9月から12月にかけて、太平洋のハワイ諸島では希少な海鳥の雛たちが初めて海へ飛び立ちます。
しかし、その多くが住宅や道路の明かりに引き寄せられ、方向を失って地面に墜落してしまうといいます。
米ハワイ・ホノルルのテレビ局KHON2(Yahoo Newsに配信)が2026年10月16日に報じたこの問題は、海の向こうで今まさに起きている、光害(ひかりがい/人工の光が過剰になることで生じる環境問題)の深刻な一面を伝えています。
光に魅入られる海鳥たち――「フォールアウト」とは何か
ハワイでは、絶滅危惧種に指定されているニューウェルミズナギドリ(現地名:ア・オ)やハワイミズナギドリ(現地名:ウア・ウ)などの海鳥が、山間部の巣穴で雛を育てます。
巣立ちの時期を迎えた雛は、本来は月や星の光を頼りに、真っ暗な夜の中を一直線に海へ向かって飛んでいきます。
ところが、住宅や店舗、道路の人工光がその進路を狂わせてしまうことがあります。
光に引き寄せられた雛は建物やワイヤーに衝突したり、力尽きて地面に落下したりします。これが「フォールアウト(fallout)」と呼ばれる現象です。
地上に落ちた雛は、車にはねられたり、ネコやマングースといった外来の捕食者に襲われたりする危険にさらされます。
ハワイ州はこの時期を9月15日から12月15日までと定めており、特に10月から11月にかけてが被害のピークになるとされています。記事の時点はまさにこのピーク期間の入り口にあたります。
数字で見る被害の実態
この問題への対応は、1979年にカウアイ島で始まった保護プログラム「セーブ・アワー・シアウォーターズ(SOS)」が長く担ってきました。発足から現在までに、累計3万羽以上の雛を保護し、海へ放鳥してきた実績があります。
- 2022年シーズン:カウアイ島のSOSに168羽が収容され、うち139羽(約83%)が放鳥された
- 2021年シーズン中間時点:絶滅危惧種のニューウェルミズナギドリ41羽が落下報告(前年同時期は97羽)
- 2025年シーズン:オアフ島のハワイ・ワイルドライフ・センターには10月下旬以降だけで530羽以上の海鳥が運び込まれた
年によって数字に大きな差があるのは、月明かりの強さや風の状況など、気象条件が落下数に影響するためと考えられています。それでも、毎年数百羽規模の希少な海鳥が人工光によって命を落としかけているという事実は変わりません。
光を変えれば、鳥は救える――2015年のケエエの実証例
この問題が「対策すれば減らせる」ことを示した印象的な事例があります。カウアイ島ケエエ(Kōke’e)にある施設では、2015年9月だけで絶滅危惧種の成鳥131羽(うちハワイミズナギドリ6羽を含む)が照明に引き寄せられて落下するという深刻な事態が発生しました。
これを受けて施設側はシーズン中の夜間消灯を含む照明プロトコルを導入し、2016年以降は照明を大幅に削減しました。その結果、落下数は2016年に2羽、2020年と2023年にそれぞれ1羽と、ほぼゼロに近い水準まで減少したのです。
この事例が示すのは、光害対策の多くが「我慢」や「大規模な投資」を必要とするものではなく、照明の使い方を見直すだけで即効性のある成果を出せるという点です。光害は、発生源を特定して対処すれば比較的短期間で改善が見込める、数少ない環境問題のひとつだといえるでしょう。
住民でもできる対策――推奨される具体的な光の基準
KHON2の記事では、住民や事業者がすぐに実践できる具体的な基準が紹介されています。
- 虫除け用の黄色い照明は40ワット以下に抑える
- 使用する暖色系の照明は色温度1,800〜2,200ケルビン(ろうそくの明かりに近い、赤みの強い暖かい光)を選ぶ
- 不要な屋外照明は消灯し、使う場合は下向きで海から離れた方向を照らす遮光型の器具にする
- 夜間は室内のカーテンを閉め、光が屋外に漏れないようにする
また、カウアイ島にある米海軍の施設「太平洋ミサイル射撃場(PMRF)」では、シーズン中に不要な照明を落とす「ダークスカイ・プログラム」を実施しているといいます。
軍事施設でさえ対応可能な取り組みであることは、一般の住宅や商業施設にとっても十分に実践可能な基準であることを示唆しています。
弱った海鳥を見つけた場合は、通気性のある箱に柔らかい布を敷き、手袋やタオルを使って後ろから優しく保護し、餌や水は与えずに島ごとの野生生物窓口へ連絡することが推奨されています。
記事では、鳥インフルエンザ(H5N1)への警戒も呼びかけられており、死んだ鳥や病気の鳥を複数発見した場合は直接触れず、専門機関に通報するよう注意が添えられています。
研究が示す複雑さ――月明かりとLEDの関係
一方で、対策を一律に進めればよいという単純な話でもないことも、近年の研究で分かってきています。
オアフ島のクロアシアナドリ(wedge-tailed shearwater、ミズナギドリの一種)を対象とした2022年の研究では、月の明るさと風速の組み合わせが、フォールアウトの発生を最も強く予測する要因であることが示されました。
月明かりが弱く風が強い夜ほど、被害が増える傾向があるというのです。
同研究では、街灯を省エネ型のLEDに切り替えても、この種のフォールアウトが増加しなかったことも確認されています。
これは一見朗報に聞こえますが、研究者らは「種によって光への反応性が異なる可能性があるため、他の絶滅危惧種にも同じ結論を当てはめるのは早計だ」と慎重な姿勢を示しています。
つまり、LEDへの転換だけで光害対策が完了するわけではなく、設置場所や向き、点灯時間といった運用面の工夫が、依然として重要な鍵を握っているということです。
日本の光害対策とのつながり
日本でも、光害は野鳥や海鳥にとって無縁の問題ではありません。
環境省は1998年に「光害対策ガイドライン」を策定し、屋外照明の適正化を自治体や事業者に促してきました。
岡山県井原市では、天体観測への影響を防ぐための光害防止条例が制定されており、照明の設置基準や点灯時間を定めています。
さらに、沖縄県の西表石垣国立公園は2024年、国際ダークスカイ協会から国内初の「ダークスカイパーク」として認定されました。星空の保全という観点は観光資源としての価値も持ちますが、今回のハワイの事例が示すように、暗い夜空を守ることは渡り鳥や海鳥といった野生生物の生存にも直結しています。
沖縄や伊豆諸島などの島嶼部に生息する海鳥にとっても、同様の光の管理が将来的な課題になり得るでしょう。
まとめ
ハワイで繰り返される海鳥の「フォールアウト」は、人工光が野生生物に与える影響を具体的な数字で示す事例です。1979年以降に3万羽以上が保護されてきた一方、2015年のケエエの事例は、照明を見直すだけで被害を大幅に減らせることも証明しました。
月明かりや風速といった自然条件と光害が複雑に絡み合う中で、完璧な解決策はまだありません。しかし、色温度を抑えた遮光型の照明に切り替えるという、個人や自治体レベルでも今すぐ始められる対策があることは、日本の光害対策を考える上でも大きなヒントになりそうです。