Image Credit: NPS / Mark Schuler
以前の記事で、データセンターが新たな光害源として浮上している実態と、業界団体が示した対策基準をご紹介しました。
今回はその「現場」で今まさに何が起きているのか、米テキサス州の小さな町の住民の声をお伝えします。
長年、静かな夜と満天の星を当たり前のものとして享受してきた地域住民が、AIデータセンターの急速な建設によって、生活の変化を強いられています。本記事は、米地元テレビ局KTXSの報道をもとにご紹介します。
静かな星空の街に何が起きたか
舞台となっているのは、テキサス州の「ビッグ・カントリー」と呼ばれる地域にあるハンビーという小さな町です。
何十年もの間、この地域の住民にとって、静かな夜と星の輝く空は当たり前の日常の一部でした。
しかし近年、AIブームを背景に巨大なデータセンターの建設が相次ぎ、24時間稼働する施設特有の騒音と強烈な光が、その暮らしを大きく変えつつあります。
これまでの記事で紹介してきたデータセンターの光害は、業界団体による声明や州法といった「制度」の話が中心でしたが、今回はその制度が追いつく前に、実際の暮らしの中で摩擦が生まれている現場の様子だと言えます。
シャワー中も「スポットライト」の中に
住民の一人、ラシー・リベラさんは、自宅の浴室の窓に差し込む明かりについて「まるでスポットライトの中でシャワーを浴びているようだった」と振り返ります。
友人は鶏小屋を設置した際、この光を遮るための対策まで必要になったといいます。
日常生活のごく私的な場面にまで人工光が入り込んでくるというのは、光害の被害を最も生々しく伝えるエピソードと言えるでしょう。
リベラさんは、こうした光や騒音が家畜や野生動物にどのような影響を与えるのか、地域住民の間でも疑問の声が上がっていると語っています。
野生動物への影響 – 道路のヘビが増えた理由
光の問題は、人間の生活だけにとどまりません。リベラさんは「道路上のヘビが明らかに増えた」とも指摘し、その背景には生息地の破壊によって、行き場を失った野生動物が新たな隠れ場所を求めていることがあるのではないかと推測しています。
データセンターの建設は広大な土地の造成を伴うことが多く、周辺に暮らしてきた野生動物たちの生活圏を直接的に奪ってしまう側面があります。
光害と生息地破壊が同時に進行することで、地域の生態系に複合的な負荷がかかっている可能性がうかがえます。
専門家が指摘する光と騒音の複合影響
英国生態学会(British Ecological Society)は、こうした光害と騒音汚染の組み合わせが、野生動物の採餌(えさを探す行動)、繁殖、そしてナビゲーション(移動時の方向感覚)といった基本的な行動を阻害しうると指摘しています。
ハンビーの住民たちも、明け方から聞こえる大型トラックのエンジン音やブレーキ音、クラクションに悩まされているといい、小さな子どもを育てる家庭にとっては特に負担が大きいとされています。
光と音、二つの側面から同時に押し寄せる環境変化に、住民たちは戸惑いを隠せない様子です。
住民が求めるもの – 以前紹介したDarkSky基準との接点
住民たちが求めているのは、データセンターの建設そのものを止めることではなく、開発事業者が照明を必要最小限に抑え、不要な時間帯は消灯し、建設段階から地域コミュニティと協力してほしいということです。
これはまさに、以前の記事でご紹介したダークスカイ・インターナショナルの「責任ある屋外照明の5原則」が目指す方向性と重なります。
政策や業界団体の声明が示す理想と、実際に施設のそばで暮らす住民の実感との間にあるギャップをどう埋めていくかが、今後のデータセンター開発における重要な課題になりそうです。
全国的な議論と、現場の暮らしと
AIデータセンターの建設ラッシュは、電力需要の急増という観点から全米で大きな注目を集めていますが、ハンビーのような小さな地域コミュニティにとっては、光・騒音・生態系への影響という、より身近で切実な問題として立ち現れています。
全国的な政策論議と、現場の住民一人ひとりの暮らしの変化の両方に目を向けることが、バランスの取れた開発のために欠かせません。
まとめ
以前の記事で紹介したダークスカイの基準は、あくまで「あるべき姿」を示す指針です。しかし今回のテキサスの事例は、その指針が実際に現場でどれだけ活かされるかが問われる、まさに今起きている現実であることを教えてくれます。
デジタル社会を支えるインフラの拡大と、そこで暮らす人々や生き物たちの夜との共存を、どう両立させていくか。ハンビーの住民たちの声は、その問いを私たちに投げかけています。
出典: KTXS「’It’s a lot to adjust to,’ Residents concerned over data center noise and light pollution」をもとに作成。