Image Credit: NASA
夜間照明と花粉シーズンの関係をNASA衛星データで解明
以前の記事でご紹介したNASAの衛星プロジェクト「Black Marble」が、今度は思いがけない分野で活用されました。
米ヴァンダービルト大学の研究チームが、この夜間照明データと花粉の飛散データを組み合わせて分析した結果、光害の少ない地域と多い地域とで、花粉シーズンの長さや深刻さに明確な違いがあることを突き止めたのです。
本記事は、NASAおよび学術誌PNAS Nexus掲載論文の内容をもとにご紹介します。
NASAの衛星データで見えてきた花粉との関係
研究を主導したのは、ヴァンダービルト大学のブラント・ガイスト氏(筆頭著者)とリン・メン氏(責任著者)らのチームで、コーネル大学やライプニッツ淡水生態学研究所などとの共同研究です。
分析に使われたのは、NASAの衛星プロジェクト「Black Marble」による夜間人工光(ALAN:Artificial Light At Night)のデータ、全米花粉局(National Allergy Bureau)の12地点の花粉濃度データ、そして気温・降水量データを組み合わせた、2012年から2023年までの12年分という大規模なデータセットです。
米国東部を対象に、夜間の明るさと花粉の関係を長期的に追跡した点が今回の研究の大きな特徴です。
花粉シーズンが最大250日に
分析の結果、夜間照明が少ない(ALANが低い)地域では、花粉シーズンの長さがおおむね170日から210日程度だったのに対し、夜間照明が多い(ALANが高い)地域では200日を超え、250日に迫る、あるいはそれを上回るケースも確認されました。
単純計算でも、最も明るい地域と最も暗い地域とでは、花粉が飛ぶ期間に1か月以上の差が生じうるということになります。
夜の街を明るく照らす人工光が、季節の巡りを感知する植物のセンサーを狂わせている可能性がある、というわけです。
重度の花粉日が引き起こす負担
花粉症持ちの方にとってより深刻なのは、単に期間が延びるだけでなく、症状が重くなる日の割合も増えている点です。
研究によれば、花粉飛散シーズンのうち「重度」の花粉濃度に分類される日の割合は、ALANが高い地域で27%だったのに対し、ALANが低い地域では17%にとどまりました。
「中程度」の花粉濃度の日についても、それぞれ9%と6%という差が見られています。
ニューヨークのような大都市では、年間を通じて花粉が観測される日数が300日近くに達する場合もあるとされ、都市の明るさがアレルギー症状の重さに直結しうることを示す結果と言えます。
なぜ夜の光が植物の花粉を増やすのか
多くの樹木や植物は、日照時間の長さ(光周性)を手がかりに、いつ芽吹き、いつ花を咲かせ、いつ休眠に入るかを調整しています。
夜間も街灯や建物の光にさらされ続けると、植物は「まだ昼が続いている」と誤認し、本来なら休眠に向かうはずの時期にも活動を続けてしまう可能性があるのです。
結果として、花粉を放出する期間そのものが間延びしてしまう、という仕組みが考えられます。
気候変動によって花粉シーズンが延びることは以前から指摘されてきましたが、身近な街の照明もまた、同じ方向に作用している可能性がある点は見過ごせません。
対策:街の照明を見直すことがアレルギー対策にもなる
NASAはこの研究を受けて、光害対策がアレルギー対策にもつながりうるとして、いくつかの具体策を挙げています。
- 屋外照明の明るさそのものを見直す
- 光が周囲に漏れないようシールド付きの照明器具を使う
- 人感センサーを導入して常時点灯を避ける
- 植物への影響が大きいとされる青色光を減らす
これらはいずれも、これまでの記事で繰り返し紹介してきた光害対策の基本と重なります。星空を守るための取り組みが、花粉症に悩む人々の生活の質を守ることにもつながるとすれば、光害対策に取り組む意義はさらに大きくなると言えるでしょう。
天文ファンでなくても関係がある光害問題
光害というと、天体観測愛好家だけの関心事だと思われがちですが、今回の研究は、天文学に興味がない人にとっても無関係ではないことを示しています。
実際、都市計画において街路樹の樹種を選ぶ際に、花粉の少ないサトウカエデやモクレンなど低花粉樹種を優先する、深夜の街灯や看板の照明を減光するといった対策も、研究者らから提案されています。
まとめ
NASAの衛星データを使った今回の研究は、光害が星空を隠すだけでなく、身近な花粉症の重さにまで関わっている可能性を示しました。夜の街を照らす光を少し見直すことが、天の川を取り戻すだけでなく、毎年のつらい花粉シーズンを和らげることにもつながるかもしれません。
光害対策は、思っている以上に私たちの日常生活に直結しているのです。
出典: NASA Science「NASA Satellites Show Where Outdoor Lights Worsen Allergy Season」、掲載論文: Geist et al., PNAS Nexus (https://academic.oup.com/pnasnexus/article/5/1/pgaf405/8429570) をもとに作成。