Photo: Azul (Wikimedia Commons, Free Use)
青色LED光がゼブラフィッシュに不安症状、子世代にも影響
夜のスマートフォンやLED照明が発する青い光は、私たち人間の睡眠だけでなく、水中の魚にも静かなストレスを与えているかもしれません。
中国科学院とドイツ・マックスプランク動物行動研究所の国際研究チームが、人工の夜間照明が魚の行動や次世代にまで悪影響を及ぼすことを実験で明らかにしました。
本記事は、学術誌Science of The Total Environmentに掲載された研究をもとに、その内容をご紹介します。
実験の方法 – 身近な明るさで9夜間照射
研究チームは、実験用モデル生物として広く使われるゼブラフィッシュ(Danio rerio、体長数センチの小型の淡水魚)を対象に実験を行いました。
可視光スペクトル全体をカバーする9種類の異なる波長の光と白色光、合計10通りの照明条件を用意し、街灯から離れた場所での明るさに相当する20ルクスという弱い光を、魚の水槽に9夜間にわたって照射し続けました。
この実験デザインのポイントは、実際の街灯や住宅の光が魚の生息地に届く際の、現実的な明るさを再現している点にあります。
青色光は5日で異変 – 壁際に張り付く魚たち
実験の結果、光を浴び続けた魚には明らかな行動の変化が見られました。
- 遊泳距離が減少する
- 仲間の魚同士で体を寄せ合うようになる(群れの密集)
- 水槽の壁際にとどまる時間が増える(壁際行動)
この壁際行動は、魚の不安やストレスの度合いを測る指標として研究でよく使われるものです。
中でも興味深いのは、スマートフォンやディスプレイの光にも含まれる青色光(波長470ナノメートル)が最も強い影響を及ぼし、他の色の光では8日目以降にようやく変化が現れたのに対し、青色光ではわずか5日目で症状が観察された点です。
子世代にも影響:一世代限りでは終わらない
さらに研究チームを驚かせたのは、この影響が実験を受けた個体だけにとどまらなかったことです。
光を浴びせた母魚から生まれた子どもの魚は、自分自身は一度も人工光にさらされていないにもかかわらず、生後15日の時点で日中の活動量が低下していることが確認されました。
つまり、親世代が受けたストレスの影響が、何らかの形で次の世代に引き継がれてしまうということです。
これは「エピジェネティクス」(遺伝子の配列そのものは変わらないまま、環境の影響で遺伝子の働き方が変化し、それが子孫に伝わる現象)と呼ばれるメカニズムに関連している可能性が指摘されており、光害の影響が一世代限りで終わらないことを示す重要な知見と言えます。
水槽の外にも広がる懸念:サンゴ礁の魚たちへの影響
この研究が示す意味は、水槽の中の話にとどまりません。
世界の沿岸都市や港町の多くは、夜間も強い照明に照らされており、川や海に生息する魚たちも同様の光にさらされ続けている可能性があります。
実際、紅海のサンゴ礁に生息するスズメダイの仲間でも、沿岸の人工照明の近くで生活する個体群に、行動や生理機能の大きな変動が確認されているとの報告もあります。
サンゴ礁は多種多様な魚の産卵場や生息地であるため、光害がサンゴだけでなく、そこに依存する魚類全体の生態系に連鎖的な影響を及ぼす懸念も指摘されています。
人間にとっての「便利な夜の明かり」が、水中の生き物にとっては見えない形でのストレス源になっているのです。
私たちにできること:照明選びという小さな配慮
研究チームは今回、比較的弱い光(20ルクス)でも影響が確認された点を重視しています。
これは、強い光を発する繁華街の看板だけでなく、住宅街の外灯や港湾施設の照明など、私たちが日常的に「当たり前」だと感じている光量でも、水辺の生態系には十分な影響を与えうることを意味します。
魚の福祉(ウェルフェア)(生物が心身ともに健全な状態で生きられること)という観点からも、養殖業や河川・沿岸の照明計画において、青色成分の少ない暖色系の光を選ぶ、必要のない時間帯は消灯するといった配慮の重要性が、今後ますます高まっていくと考えられます。
なぜゼブラフィッシュが選ばれるのか
ゼブラフィッシュは、遺伝子操作がしやすく成長も早いことから、医学・生物学の研究で世界中の研究室で使われている代表的な実験動物です。
人間の睡眠や概日リズム(体内時計)の研究にもよく利用されており、今回のような光害研究の成果は、将来的に人間への影響を理解するための手がかりにもなると期待されています。
小さな熱帯魚の実験が、私たちの街の照明のあり方を見直すきっかけになるかもしれません。
まとめ
今回の研究が示したのは、人工の光が魚に与える影響は、当事者の魚だけにとどまらず、次の世代にまで及ぶ可能性があるという事実です。
しかも、その原因はごくありふれた弱い光や、身近な青色LEDでした。
光害は星空を見えなくするだけでなく、水辺に暮らす生き物の眠りと健康をも静かに脅かしているのかもしれません。
夜の照明を見直すことは、私たち自身だけでなく、水の中の生き物のためでもあるのです。
出典: ScienceDaily「All-night lights change the behavior of fish, even into the next generation」(https://www.sciencedaily.com/releases/2024/09/240923110729.htm)、掲載論文: Science of The Total Environment, 954:176336 をもとに作成。