2024年10月下旬、アトラス彗星(C/2024 S1 ATLAS)が太陽に超接近します。
紫金山・アトラス彗星とは別の彗星です。
この珍しい天体ショーに、世界中の天文学者や星空愛好家が注目しています。
今回は、このアトラス彗星の特徴や観測の可能性について、詳しく見ていきましょう。
アトラス彗星(C/2024 S1)とは?
発見と特徴
アトラス彗星は2024年9月27日、ハワイのATLAS(小惑星地球衝突最終警報システム)によって発見されました。
この彗星は非周期彗星で、オールトの雲から飛来したと考えられています。
特筆すべきは、その軌道です。
アトラス彗星は太陽に極端に接近する「サングレーザー」と呼ばれる彗星の一種で、近日点(太陽に最も近づく点)では太陽表面からわずか約123万kmまで接近します。
クロイツ群彗星との関連
アトラス彗星は、クロイツ群彗星の一員である可能性が高いとされています。
クロイツ群彗星は、太陽に極端に接近する軌道を持つ彗星群で、過去には池谷・関彗星(1965年)やラブジョイ彗星(2011年)など、非常に明るく尾が長い彗星を生み出してきました。
光度予報と観測の可能性
予想される明るさ
アトラス彗星の光度予報には、天文ファンの間でも大きな期待が寄せられています。
現在の予測では、近日点通過時の2024年10月28日頃に、最大で-8.3等級にまで明るくなる可能性があるとされています。
これは、夜空で最も明るい金星(-3.9等級)をも上回る驚異的な明るさです。
しかし、これは太陽のごく近くでの光度ですので、観測は非常に困難です。
太陽から十分離れ、観測が可能な頃(11月1日頃?)には急激に光度が下がり、6等ぐらいになりそうです。
C/2024S1アトラス彗星の光度予報。太陽最接近時には‐8等というとんでもない数字が出ているが一般人に観測は不可能でしょうね。太陽に接近して少し離れたころ明け方の南東低くに見えそうですが減光はかなり急。そもそも核が生き残るかどうか。非常にシビアな条件。https://t.co/EwkKRGoGHh pic.twitter.com/mXupbR5KfT
— しゃふ@お星様☆ (@hosihosinosora) October 2, 2024
また、、彗星の明るさ予測は非常に難しく、「彗星の明るさは水物」という言葉があるほどです。
太陽に近づきすぎて崩壊してしまう可能性もあります。
そのため、実際の明るさは予測と大きく異なる可能性があります。
日本からの観測チャンス
残念ながら、以上のことから最も明るく輝くとされる近日点通過前後はアトラス彗星を観測するのは非常に困難かもしれません。
近日点通過時、彗星は太陽のすぐ近くに位置するため、その強い光に埋もれてしまいます。
また、近日点通過後も日本からは超低空に位置するため、地平線付近の大気の影響を受けやすく、観測条件は決して良くありません。
しかし、希望がないわけではありません。近日点通過の前後に、彗星が長大な尾を形成する可能性があります。
その場合、日の出前の夜空に彗星の尾だけが見える可能性があります。
10月29日近日点通過の1日後をステラリウムでシミュレートしてみました
天文シミュレーションソフトウェア「ステラリウム」を使用して、アトラス彗星(C/2024 S1)の近日点通過1日後の状況をシミュレートしてみました。

上の画像は10月29日、日の出の約1時間前、5時8分の東の空の様子です。(山梨県でのシミュレーション)
中央の黄色の横線は地平線です。中央下の明るい星が太陽です。日の出1時間前なので、当然地平線の下です。
シミュレーションによると、2024年10月29日の早朝、アトラス彗星は太陽から約2度の位置にあります。太陽のすぐ右上の赤い4本の線で囲まれた星です。右上に伸びる線が尾の方向です。
彗星は地平線から約10度下にありますので、30度、40度といったような長い尾が出れば、日の出前に尾だけ見える可能性があります。
1965年の池谷・関彗星の場合は近日点通過後、彗星の光度が4等に落ちた時でさえ、裸眼で20~30度、写真で40度の尾が見られたそうです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%A0%E8%B0%B7%E3%83%BB%E9%96%A2%E5%BD%97%E6%98%9F_(C/1965_S1)
2011年に見られた、同じクロイツ群のラブジョイ彗星も写真では40度以上もの長い尾が写りました。
11月1日 光度は6等に落ちるが、日の出50分前に彗星本体が地上に出るので、より尾が観測しやすくなる
アトラス彗星(C/2024 S1)の尾の観測チャンスは、近日点通過から数日経った11月1日に、より現実的なものとなる可能性があります。
近日点通過から4日が経過し、彗星の光度は最大時の-8.3等級から約6等級まで落ちると予測されています。
これは肉眼での観測限界に近い明るさですが、低空のため双眼鏡や小型望遠鏡でも彗星本体の核の観測は難しいでしょう。
写真には写るかもしれません。
尾の撮影のチャンス
最も注目すべき点は、彗星の出現時刻です。
11月1日の日の出時刻は山梨県で午前6時7分頃ですが、彗星本体は日の出約50分前には地上に姿を表すと予想されています。
これは、近日点通過直後と比べて格段に観測しやすい状況といえるでしょう。
超低空ではありますが、見通しの良い場所であれば、尾の写真を撮るチャンスがあります。
近日点通過時に太陽の熱で放出されたガスや塵が、尾として広がっていくのを観察できるかもしれません。
ラヴジョイ彗星は近日点通過後20日近く経っても、長大な尾を見せていたそうです。
https://www.astroarts.co.jp/photo-gallery/photo/6993
この日を逃さず、早起きして東の空を注意深く観察してみましょう。
光害の少ない場所で観測すれば、一生に一度の天体ショーを目撃できるかもしれません。
明け方、日の出前の僅かな時間が勝負
日の出時刻の約1時間前、午前5時頃から空が明るくなり始めます。
この時間帯に、低空の東南東の空を注意深く観察すれば、彗星の尾が見える可能性があります。ただし、以下の点に注意が必要です:
- 彗星本体が明るいときは太陽に近すぎて見えない。
- 低空のため、建物や山などの障害物がない、見通しの良い場所が必要です。
- 大気の状態により、見える可能性は大きく変わります。
- 彗星の状態(崩壊していないか等)によっても見え方は変わります。
このシミュレーション結果は、観測の難しさを裏付けるものとなりました。
しかし同時に、条件が整えば観測のチャンスがあることも示唆しています。
安全に十分注意しながら、この稀有な天体現象の観測にチャレンジしてみるのも良いでしょう。