2025年10月中旬、一部のSNSや動画投稿サイトで「彗星C/2025 A1が地球に15万kmまで接近し、肉眼で見えるほど明るくなる」との情報が拡散しました。

これが事実であれば、月より近い距離を彗星が通過する史上稀な出来事となります。しかし、結論から言うと「C/2025 A1」という彗星は実在しません


SNSで拡散した“幻想の彗星”

InstagramやLinkedInでは、「C/2025 A1が2025年10月21日に地球へ15万kmまで接近」「核の直径1.2km」「北半球で肉眼で見える」との投稿が一部で話題になりました。

​しかし、こうした情報について専門家や天文学サイトは即座に否定し、「そのような彗星は存在しない」「NASAやIAU Minor Planet Centerにも登録がない」と警告を発しています。


本当に注目すべきはレモン彗星(C/2025 A6)

混乱の原因の一つは、同時期に実在する明るい彗星C/2025 A6(Lemmon)の存在です。レモン彗星は2025年10月21日前後に太陽へ接近し、地球から約8,900万kmの距離を通過する予定です。

これは天文学的には安全な距離でありながら、5等級前後まで明るくなる可能性があり、条件が良ければ肉眼でもかすかに見えるかもしれません。


名前の混同が誤解の原因に

彗星命名のルールでは、発見された順に「C/年+半月番号+発見者名」の形式で表記されます。

例えば「C/2025 A6 (Lemmon)」は、2025年の最初の半月(A)に6番目に発見された彗星で、Lemmon天文台による発見を意味します。

「A1」が存在するとすれば同年最初の発見彗星を示しますが、現在のIAUデータベースにはC/2025 A1の登録は見当たりません

そのため、SNS投稿者が「A6」を誤って「A1」として拡散した可能性が高いと見られます。


現在の空で見られる本物の彗星たち

2025年10月中旬は、天文ファンにとって「彗星の秋」と呼ぶにふさわしい時期です。

現在観測可能な主な彗星は以下の通りです。

彗星名等級観測時期(2025年)見やすい地域備考
C/2025 A6 (Lemmon)5〜6等級予想10月中旬〜末北半球明け方に尾の長い姿を見られる可能性
C/2025 R2 (SWAN)7〜8等級10月中旬南半球中心SOHO衛星が発見した新彗星​
C/2025 K1 (ATLAS)9〜10等級9月〜11月両半球近日点通過を経て光度低下傾向

天文ファンへのアドバイス

  • SNSで流れる「地球に接近」「衝突の恐れ」などの話題は、必ず公式天文機関(NASA・JPL・国立天文台・IAU)の発表で確認を。
  • 日本語で最新の観測情報を得るには「Astronomy Now」「AstroArts」「aerith.net」などが信頼できます。
  • レモン彗星など本物の彗星を見るには、都市部より離れた暗い空で、夜明け前や日没後に双眼鏡を活用しましょう。

まとめ

「C/2025 A1」は現実には存在しない架空彗星であり、誇張や混同から生まれたインターネット上の都市伝説的話題に過ぎません。

しかし、2025年の秋夜空には確かに、C/2025 A6(Lemmon)C/2025 R2(SWAN)といった本物の彗星たちが美しい尾を描きながら飛来しています。

“幻のA1彗星”をきっかけに、実際の天体観測への関心が高まれば、それこそが宇宙がもたらした最高の贈り物と言えるでしょう。