
紫金山・アトラス彗星は、2023年初頭に中国の紫金山天文台と小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)によって発見されました。C/2023 A3という仮符号(※)が付けられました。
この彗星は2024年9月から10月にかけて、肉眼で見ることができるほどの明るさになることが期待されており、その長く伸びる尾が観測できるかも知れません。
「紫金山・アトラス彗星」の読み方は?
「紫金山」は日本語読みでは「しきんざん」と読みますが、英語表記では中国語読みで「Tsuchinshan-ATLAS」となります。
この呼び名が正式な呼び方と言っていいでしょう。カタカナで表記すると「ツーチンシャン」もしくは「ツチンシャン」となります。
検索をすると「ツーチンシャン」または「ツチンシャン」と表記しているサイトが多いようです。
つまり、正式な中国語読みでカタカナ表記すると「ツーチンシャン・アトラス彗星」または、「ツチンシャン・アトラス彗星」となります。
観測のための基礎知識と準備
紫金山・アトラス彗星とは
2023年1月に発見された非周期彗星で、大きな核を持つことから、太陽に近づく際には明るく長い尾を見せることが期待されています。2024年10月に地球に最も近づくと予想されており、その時期にはマイナス等級(1等星より明るい)の明るさになる可能性があります。
観測の準備
彗星観測には、暗い場所を選び、光害の少ない環境を探すことが重要です。また、天気予報もチェックし晴れている場所を探して、移動することも視野に入れましょう。
観測のベストタイミングと場所
紫金山・アトラス彗星を肉眼で見るには彗星が最も太陽に近づく、2024年9月下旬から10月中旬以降が良いでしょう。
9月下旬は日の出前の東の空に
下の図は2024年9月30日の日の出1時間前の彗星の位置です。日の出1時間前ですので、空が明るくなり始める時間帯に東の空の超低空に彗星が見えるはずです。9月27日、彗星が近日点(太陽に最も接近)を通過した直後ですので、尾が長く、明るく見える時期です。
ただ東の空の超低空ですので、東の空の開けた場所、地平線・水平線が見渡せる場所での観測となるでしょう
図内の彗星の尾の長さは正確なものではありませんが、尾が長くなっていれば、東の空から尾が先に登ってくる様子が観測できるかも知れません。

10月中旬以降は日の入り後、西の空に
下の図は2024年10月13日、日の入1時間後の彗星の位置です。
10月12日頃からは夕方、西の空に見えるようになります。12日は、下の図より更に低い位置となり、観測は難しいでしょう。(でも、チャレンジしてみる価値はあります。)13日からようやく観測できそうですが、まだかなりの低空ですので、彗星が沈むまでの僅かな時間しかチャンスはありません。

10月13日以降は夕方西の空で徐々に高度を上げて、観測しやすくなります。
下の図は2024年10月23日、日の入1時間後の彗星の位置です。
この頃になると高度もだいぶ上がり、西の空の開けていない場所でも観測できそうです。ただし、徐々に暗く、尾も短くなっていきますので、双眼鏡や望遠鏡があると観測しやすいでしょう。この頃の予想光度は2.7等級くらいで、ピーク時よりもだいぶ暗くなっているでしょう。都会では肉眼で見ることはできないかも知れません。しかし、これでも通常の彗星と比べればかなり明るい部類です。

予測される明るさと尾の長さ
彗星の明るさや尾の長さは、太陽に近づく距離や彗星の物質によって変わります。紫金山・アトラス彗星は初めて太陽に接近する彗星なので、明るさや尾がどれくらい伸びるのかの予測は非常に難しいそうです。
今の段階では、紫金山・アトラス彗星は、太陽に最も接近する近日点通過の前後に肉眼でも確認できる、0.5等級の明るさになることが予測されています。0.5等級とは1等星よりも明るくなるということです。
https://hikarigai.wooder.info/2024/05/13/comet-c-2023-a3-tsuchinshan-atlas
彗星が非常に明るくなる条件
太陽に近い軌道を通過すること
彗星が太陽に近づくほど、表面の氷が昇華し、ガスと塵の尾を形成する活動が活発になります。歴史上最も明るかった彗星のほとんどが、地球の軌道内を通過しています。紫金山・アトラス彗星もこの条件を満たしています。
大きな核を持つこと
核が大きいほど、活動が活発で明るくなります。紫金山・アトラス彗星は遠くからでも発見できるほど十分な明るさがあることから、核が大きいと考えられています。
地球に近いところを通過すること
彗星が地球に近づくほど、地球から見た明るさが増します。紫金山・アトラス彗星は太陽接近の2週間後に地球から7000万キロメートル以内を通過すると予測されていて、これが明るさの追い風になります。
これらの条件を満たしていることから、紫金山・アトラス彗星は非常に明るくなる可能性があるのです。ただし、予測が外れることもあります。
初心者のための観測ヒント
明るくなると期待される紫金山・アトラス彗星ですが、街明かりのない山の中なら肉眼でも彗星の尾が見えるでしょう。
しかし都会では、尾の淡い部分は街明かりにかき消されて彗星の頭部(先端部分)がやっと見える程度だと思われます。
そこで、彗星をよりはっきり見るために双眼鏡を用意することをおすすめします。できるだけ視野が広く、明るいレンズ(口径の大きなレンズ)でみると、迫力ある彗星の姿がはっきりと見えるはずです。
今年3月に地球に接近したポン・ブルックスはギリギリ肉眼で見えるかどうかという5等級でしたが、私が20年以上前に購入したビクセン製8X56双眼鏡ではっきりと見ることができました。
双眼鏡の倍率と視野
双眼鏡の「8X56」という表記はレンズが56mmで倍率が8倍という意味です。倍率はこのくらいの低倍率の双眼鏡をおすすめします。倍率が高いとその分手ブレが大きくなり、像が暗くなるので見えづらくなります。ただ、最近は手ぶれ補正内蔵の双眼鏡も発売されていますので、選択肢の一つに入れてもいいと思います。
また、視野はできるだけ広いものを選びましょう。タカログのスペック表記の「見掛視界」が広いものです。
視野が狭い双眼鏡は非常に見づらく感じます。安価なものは大抵視野が狭いです。
下におすすめの双眼鏡を挙げておきます。高価ですが一生物だと思っていいものを購入することをおすすめします。星の見え方がまるで違います。
ビクセン アルテスJ双眼鏡 HR8x42WP
CANON 18×50 IS ALL WEATHER
都心から近い観察ポイントの探し方
紫金山・アトラス彗星の観察ポイントの条件は?
2024年9月下旬と10月中旬に地球に最も近づきます。この頃が観測する絶好の機会です。
東京近郊でも、適切な観測ポイントを選べば、この壮大な彗星の美しさを堪能することができます。ここでは、紫金山・アトラス彗星を観測するための条件と、東京からアクセスしやすい観測ポイントの探し方について解説します。
観測地の重要な条件は2つあります。それは
- 地平線(水平線)が見えるような開けた場所(山の上や海辺など)
Googlemapのストリートビューで開けたところがないかを探します。 - 都会の光(光害)が無い場所
光害マップ(Light Pollution Map)という光害の度合いが見られるサイトを使って、できるだけ街明かりの影響が少ない場所を探します。彗星の見える方角に大きな街が無いかもチェックすることを忘れずに。
この2つです。
紫金山・アトラス彗星観測の候補地
[東の空]
都心から比較的近く、東の空の低いところまで見える場所となると、必然的に海辺が選択肢となりそうです。
候補地1 九十九里浜:都心から1時間30分
千葉市、東京都心に比較的近いため光害の影響はかなりありますが、東は海ですので光害の影響はなく、水平線から登ってくる彗星が見れるでしょう。
候補地2 犬吠埼:都心から車で2時間20分
九十九里よりも都心の光の影響は少ないと思われます。犬吠埼の灯台から少し離れたところで見ると良いでしょう。
候補地3 高萩、北茨城市:都心から2時間10分
都心から更に離れるため、より夜空が暗く、淡い尾もよく見えるでしょう。
候補地4 剣崎(神奈川県三浦半島):都心から1時間30分
東に房総半島がありますが、見晴らしは良さそうです。
候補地5 スカイツリー、東京都タワー
見晴らしは問題なしですね。双眼鏡があれば見つけやすいでしょう。光害の真っ只中なので肉眼では最も明るい核の部分しか見えないでしょう。双眼鏡なら尾も見えるかも知れません。
西の空
候補地6 千葉県安房郡鋸南町:都心から1時間30分
都心から近く、西に海が見える場所となると房総半島の西側か三浦半島の西側となりますが、この鋸南町の北西に都心があるので、光害の影響があるかも知れません。
候補地7 陣場山山頂:都心から1時間10分+登山
西の空が開けています。夕方彗星を見たあと、暗い中を懐中電灯で照らしながら下山するか、テントやツェルトで日が昇るまで待つか、しなければなりませんが、都心から近いので西の空を見るにはいい候補地かと思います。西は都心とは反対方向ですが、光害の影響はかなりあります。
終わりに
紫金山・アトラス彗星の観測は、準備と情報収集が成功の鍵です。東京からでも、適切な場所とタイミングを選べば、この美しい彗星を目撃することができます。ぜひ、この機会をお見逃しなく!
彗星の仮符号とは
国際天文連合(International Astronomical Union, IAU)が新しく発見された彗星や回帰した周期彗星に順番に符号を付けていきます。
「C/」(または「P/」など)+「発見(検出)年」+「スペース」+「発見(検出)月を表すアルファベット大文字(A~Y)」+「発見順の数字(1~)」で表されます。