
皆さんは夜空に広がる都市の明かり「スカイグロー(人工空の明るさ)」が、身近な湖の生態系にどんな影響を与えているかご存じでしょうか?
Science Xの記事によると、最新の大規模実験で、人工光が湖の藍藻(シアノバクテリア)の異常増殖を引き起こし、湖の炭素循環や生態系全体にまで影響を及ぼすことが明らかになりました。
Light pollution stimulates cyanobacterial growth and metabolic processes in lakes, large-scale experiment shows https://t.co/7OHCvbJwS0
— Jennifer Stanley (@JennWrenStanley) April 12, 2025
https://phys.org/news/2025-04-pollution-cyanobacterial-growth-metabolic-lakes.html
本記事では、Science Xで紹介された研究内容をもとに、光害の湖への影響、そのメカニズムや今後の社会的課題について、わかりやすく解説します。
スカイグローとは?「夜の光」の正体
Science Xの記事によれば、スカイグロー(skyglow)は都市の照明が大気中で拡散し、夜空を明るく照らす現象です。
これは都市部だけでなく、遠く離れた自然環境にも届きます。
照度0.06ルクスという微弱な明るさでも、湖や森林の生態系に影響を与えることが分かっています。
従来、光害は天体観測や人間の健康への影響が注目されてきましたが、Science Xが紹介した最新研究では、「湖の微生物や藻類など水中生物への影響」が新たな焦点となっています。
藍藻の増殖や湖の炭素循環(炭素が生物間で循環する仕組み)への影響は、これまで十分に検証されていませんでしたが、今回の研究でその実態が明らかになりました。
LakeLab実験 – 世界最大規模の湖光害実験
記事によると、ドイツのIGB(淡水生態学・内陸漁業研究所)が実施したLakeLab実験は、世界最大規模の湖光害実験です。
24の区画(各1,300立方メートル)を湖内に設け、10区画を夜間に0.06~6ルクスの人工光で1か月間照射。
5区画は無照明のコントロールとし、微生物やプランクトンの分布を均等にして実験を開始しました。
結果、藍藻(シアノバクテリア)や光合成を行う嫌気性細菌(AAPs)が、照明区画では平均32倍に増加。
驚くべきことに、0.06ルクスという非常に弱い光でも藍藻の増殖が促進されていたのです。
通常、藍藻の光合成にはもっと強い光が必要と考えられてきましたが、夜間の微弱な人工光でも生理反応が生じることが明らかになりました。
この増殖は、藍藻が「一次生産者(生態系の基盤となる生物)」として湖の炭素循環や栄養塩循環に大きな役割を持つため、湖全体の物質循環にも大きな影響を与えます。
光害がもたらす藍藻ブルームと炭素循環の変化
Science Xの記事が強調するのは、藍藻の増殖が湖の炭素循環(生物が有機物を生産・分解・再利用する仕組み)に与える影響です。
藍藻は光合成によって有機物を合成し、他のプランクトンや微生物の餌となります。
その後、分解者(デコンポーザー)が藍藻を分解し、無機物へと戻します。この循環が湖の生態系バランスを保つ鍵です。
人工光による藍藻増殖で、有機物分解速度も上昇し、炭素循環全体が活性化。
遺伝子解析や質量分析でも、照明区画では微生物群集の構成変化や特定細菌種の優占化が確認されました。
藍藻の一部は「シアノトキシン(有害物質)」を産生するため、増殖が進むと魚類や水鳥、さらには人間の飲料水にもリスクが及ぶ可能性があります。
記事では、原因不明の藻類ブルーム(異常増殖)が発生した場合、光害が新たな要因として考慮されるべきだと指摘しています。
都市化と光害 – 今後のリスクと社会的課題
都市化の進展により、夜間の人工光は世界的に増加しています。
記事は、都市部のスカイグローが湖や河川、湿地にまで影響を及ぼし、藍藻ブルームのリスクを高めていると警鐘を鳴らしています。
とくに都市周辺の湖では、低照度でも藍藻が増殖するため、従来の水質管理だけでは対応が難しくなっています。
藍藻ブルームは、漁業や観光、飲料水供給にも悪影響を及ぼすため、早期発見と対策が不可欠。
記事ではリモートセンシング(衛星やドローンによる観測)を活用した監視体制の強化や、照明器具の設計・配置の工夫によるスカイグロー抑制を提案しています。
今後は、光害対策と水質管理を一体的に考え、環境と共生する都市づくりが求められるでしょう。
研究の意義と今後の展望
Science Xの記事は、光害が湖の微生物生態系や炭素循環に及ぼす影響を初めて大規模かつ実験的に明らかにした点を高く評価しています。
藍藻の増殖や湖の物質循環の変化は、従来の水質管理や生態系保全の枠組みに新たな視点をもたらします。
今後は他の湖や河川でも同様の現象が起きているか調査し、地域ごとのリスク評価や対策が求められます。
都市計画や照明設計でも、自然環境への影響を最小限に抑える工夫が不可欠です。
藍藻ブルームと健康被害の最新知見
藍藻(シアノバクテリア)は、地球上で最も古い光合成生物の一つで、淡水から海洋まで幅広く生息しています。
近年、地球温暖化や富栄養化(栄養塩の増加)と並び、光害が新たな増殖要因として注目されています。
藍藻ブルームが発生すると、水面が青緑色に染まり、悪臭や魚の大量死、さらにはシアノトキシンによる健康被害が報告されています。
特に飲料水源となる湖でのブルームは、浄水処理のコスト増加や水道水の安全性に直結する社会問題です。
記事では、光害対策とともに、湖の栄養塩管理や温暖化対策を組み合わせた「総合的なリスク管理」の重要性を強調しています。
まとめ
Science Xの記事が伝えるように、人工光による光害は湖の藍藻増殖や炭素循環に大きな影響を与えています。
都市化が進む現代社会において、光害対策は水質保全や生態系保護の新たな課題です。
今後は、科学的知見をもとに、都市照明のあり方や環境政策を見直し、自然と人間が共生できる社会を目指すことが求められます。
夜の光と自然環境の関係に目を向けることが、持続可能な未来への第一歩となるでしょう。