
人工的な夜間照明による光害が私たちの健康に与える影響について、最近の研究結果が報告されたとスペインの有力紙エル・パイス(EL PAÍS)の2024年5月4日付の記事が報じました。今回はこの記事について取り上げたいと思います。
この研究によると、夜間の照明環境の変化が生物学的リズムを乱し、さまざまな疾病リスクを高めることが明らかになってきました。
この問題は世界的な脅威となっており、早急な対策が求められています。
光害の現状と影響
人工照明の増加と光害の深刻化
2016年に科学誌に発表された報告書「The new world atlas of artificial night sky brightness」によると、世界人口の80%以上、米国とヨーロッパではほぼ100%の人々が光害のある空の下で生活しています。ヨーロッパでは6人に1人が天の川を見ることができず、88%の土地で夜間の光害に悩まされています。
さらに、スペイン国立研究所の調査では、過去25年間で光害が約50%増加したことが分かっています。毎年、地球上の照明面積と夜空の人工光の強度が2.2%ずつ増加しており、「光害は急速に拡大する世界的な脅威」と専門家は警鐘を鳴らしています。
健康への影響
最近の研究では、夜間の屋外照明への曝露が脳卒中のリスクを43%高めることが明らかになりました。これは中国の28,000人以上を対象とした大規模な研究で、人工照明の強い地域ほど脳卒中のリスクが高いことが示されました。
この結果に加え、過去の研究でも光害が糖尿病や高血圧、睡眠障害などのリスク要因となることが指摘されています。
また、乳がん、前立腺がん、大腸がん、甲状腺がんのリスクも有意に高まることが報告されています。
光害のメカニズム
光害が健康に影響を及ぼすメカニズムとして、以下の2点が重要視されています。
- 生物学的リズムの乱れ
人体の生物学的リズムは、24時間の明暗サイクルによって同期されています。
夜間の強い人工照明はこのサイクルを乱し、概日リズム障害(chronodisruption)と呼ばれる状態を引き起こします。
これにより、代謝異常、心血管疾患、認知障害、うつ病、早期老化のリスクが高まります。 - メラトニン分泌の抑制
強い夜間照明は、睡眠に関与するメラトニンホルモンの分泌を抑制します。
メラトニンは睡眠以外にも、抗酸化作用、発がん細胞の増殖抑制、動脈硬化や高血圧のリスク低下などの重要な役割を果たしています。
メラトニン不足は、様々な疾患の引き金となる可能性があります。
概日リズム障害
概日リズム障害は、体内時計の周期と地球の24時間の周期とのずれが修正できず、望ましい時刻に入眠したり覚醒することが難しくなる睡眠障害です。不規則な睡眠・覚醒サイクルが特徴で、4時間以上連続して眠れないことや昼間の居眠りが多くなります。
日本の光害の現状と対策
日本でも夜間照明による光害は深刻な問題となっています。環境省の調査によると、2021年時点で日本の約60%の地域で夜空が明るすぎる状態にあり、特に都市部での光害が顕著です。
このような光害を減らすためには、以下のような対策が必要不可欠です。
- 不要な照明の削減
街路灯や広告看板など、過剰な夜間照明を見直し、必要最小限に抑える。 - 適切な照明の選択
人間の目に見える範囲の光を出す照明を使用し、青白い光は避ける。 - 照明時間の制限
深夜から早朝にかけての不要な照明はオフにする。 - 住民への啓発活動
光害の影響を広く知らせ、自治体や企業、個人レベルでの対策を促す。
国や自治体、企業、市民が一体となって光害対策に取り組むことが重要です。
照明環境の適正化は、単に星空の保護にとどまらず、私たちの健康を守ることにもつながります。
まとめ
光害は世界的な環境問題であり、私たちの健康にも深刻な影響を及ぼしています。
夜間照明による生物学的リズムの乱れやメラトニン分泌の抑制が、がん、心血管疾患、認知症などのリスクを高める可能性があります。
日本でも光害は進行しており、対策が急がれます。不要な照明の削減、適切な照明の選択、照明時間の制限など、さまざまな取り組みが求められています。
私たち一人ひとりが光害の問題を認識し、環境に配慮した生活スタイルを実践することが大切です。健康で持続可能な社会を実現するためにも、光害対策は欠かせない重要課題なのです。