夜空に広がる星々の輝きを見上げることは、私たちに夢と希望を与えてくれます。

しかし、光害という問題によって、都市部では満天の星空を肉眼で見ることはほとんどできません。一方、地方の人里離れた場所では、まだ星空の美しさを堪能できるスポットが残されています。

今回は、イングランドのニッダーデール地方で計画されている光害対策と、それによる新たな観光振興策について解説します。

星空観賞スポットが生む経済的価値

近年、都市部の光害が深刻化する中、天の川や美しい星空を目にできるスポットは貴重なものとなっています。

実際、イングランドのノーサンバーランド国際ダークスカイパーク(Northumberland International Dark Sky Park)では、年間およそ2500万円(25万ポンド)の経済効果があると推計されています。

星空観賞はただでさえ人気のあるレジャーですが、それに伴う観光需要の高まりによって、地域経済の活性化にもつながるのです。

ニッダーデールの取り組み 新たな星空観賞スポット誕生へ

そんな中、イングランドの北ヨークシャー州では、ニッダーデール国立風景地域(Nidderdale National Landscape area)を新たな星空観賞スポットとして整備する計画が進行中です。

2024年5月7日、北ヨークシャー州議会は、この地域における光害対策を盛り込んだ計画書を承認しました。

https://www.harrogateadvertiser.co.uk/news/environment/hopes-nidderdale-could-become-haven-for-stargazers-after-stricter-light-pollution-rules-approved-4618757

具体的には、ニッダーデール地域を複数のゾーンに分け、ゾーンごとに適切な照明基準を設けています。

例えば、最も過疎な上部ニッダーデールゾーンでは、外部照明の上限を500ルーメン(人間の目に見える光の明るさの単位)と定めています。

このように、地域全体で光害対策に取り組むことで、美しい星空を守ろうというわけです。

デレック・バスティマン州議会議員は、「ニッダーデールには国内で最も美しい夜空があり、その保護は野生生物と観光業にとって重要です」と述べています。

同地域を新たな星空観賞スポットとして整備し、ノーサンバーランドのダークスカイパークのように観光客を呼び込もうという狙いがあるようです。

光害対策は環境保護の観点からも重要な意義があります。

過剰な人工光は、動植物の生態系に悪影響を及ぼすことが指摘されています。ニッダーデールの取り組みは、美しい星空を守ることで、自然環境の保全にもつながるでしょう。

日本への示唆 地方の魅力を活かした観光振興

日本にも星空の素晴らしい場所は多く存在します。

長野県の阿智村、岐阜県の白川村、宮崎県の青島などが有名ですが、その他にも北海道や山間部、離島など、まだ多くの星空スポットが点在しています。

しかし、その一方で、都市部での光害は深刻な問題となっています。

東京都心部では、天の川を肉眼で見ることは難しい状況です。また、地方でも観光地への人口集中に伴い、照明が増えてきたことで星空の質が低下している地域もあります。

このように、日本でも光害対策は喫緊の課題だと言えるでしょう。

ニッダーデールのように、地域全体で照明の基準を設け、星空を守る取り組みは大いに参考になります。そうすれば、新たな星空観賞スポットを整備し、観光振興につなげられる可能性があります。

観光資源として星空を活用することには、様々なメリットがあります。

第一に、都市部での夜遊びとは違った、自然を感じられるユニークな体験ができます。

第二に、環境保護にもつながります。

そして第三に、地方の活性化が期待できます。

ニッダーデールのように年間数千万円の経済効果があれば、雇用創出や関連産業の発展など、大きな波及効果が予想されます。

実際、日本でも星空観賞を切り口に観光振興に取り組む自治体が増えてきました。

岐阜県の白川村や長野県の阿智村、大台町などがその例です。星空ツアーやナイトハイキング、星景色写真教室など、様々な体験型観光メニューが用意されています。

有望な星空スポット事例

これらの取り組みを見ると、星空は魅力的な観光資源になりうることがわかります。そこで、日本における有望な星空スポットの事例を2つ紹介します。

  1. 阿蘇くじゅう国立公園(熊本県、大分県) 火山活動による大規模な噴火によって生まれた阿蘇カルデラ。巨大な草原とカルデラ湖が広がり、圧倒的な星空を体感できます。人工照明が少ないことから、満天の星空の下での体験が可能です。
  2. 尾鷲・熊野市(三重県) 紀伊半島南部には尾鷲市と熊野市があり、ほぼ街灯のない集落も点在しています。太平洋に面した海沿いスポットでは、海と星空を同時に楽しめる絶景が待っています。これらの地域を星景色観光の名所として整備することで、新たな観光資源になりうるでしょう。

まとめ

本記事では、イングランド北ヨークシャー州のニッダーデール地域で進められている光害対策と、それによる観光振興の取り組みについて解説しました。

地域全体で照明の基準を設けて星空を守ることは、自然環境の保護はもちろん、地方の活性化や新たな観光資源の創出にもつながります。

日本においても、星空スポットを整備し、ユニークな体験型観光メニューを提供することは、地方の魅力向上に役立つはずです。都市部での光害対策に加え、美しい星空を守る地域活動に期待したいところです。