Image Credit: NASA Earth Observatory / Black Marble
衛星データが明かす、光害が減った国と増えた国の分かれ道
夜空を見上げても、星がほとんど見えない——そんな経験はありませんか。それは「光害」(こうがい、人工照明が夜空を必要以上に明るくしてしまう環境問題)と呼ばれる現象が原因かもしれません。
NASAの衛星プロジェクト「Black Marble」が2014年から2022年までの夜間照明データを分析したところ、世界全体では光害が拡大する一方、フランスやイギリスなど改善に成功した国もあることが分かりました。本記事は、米国の天文情報サイトEarthSkyの報道をもとに、光害の最新動向と各国の取り組みをご紹介します。
NASAの「Black Marble」プロジェクトとは
NASAが進める「Black Marble(ブラックマーブル)」プロジェクトは、3基の人工衛星を使って地球全体の夜間照明を継続的に観測する取り組みです。2014年から2022年までの8年間分のデータを分析した結果、地球全体の夜間照明の放射量(明るさを示す指標)は平均で34%も増加していることが判明しました。これは都市化や経済発展に伴い、屋外照明やLED照明の設置が世界的に急増していることを示しています。
従来、光害の実態を把握する手段は「Globe at Night」のような市民参加型の星の見え方調査など、地上からの限定的な観測が中心で、国や地域を横断した客観的な比較は困難でした。衛星による継続観測が可能になったことで、政策の効果測定や国際比較がはじめて数値ベースで行えるようになった点は、光害問題を「感覚の話」から「検証可能な政策課題」へと引き上げた大きな転換点だと言えるでしょう。
光害は単に星が見えにくくなるだけでなく、渡り鳥や海亀などの生態系への悪影響、昆虫の個体数減少との関連、人間の睡眠リズムの乱れ、無駄なエネルギー消費による環境負荷など、多方面に影響を及ぼす問題として近年注目度が高まっています。
改善に成功した国々:フランス・イギリス・オランダ
世界的に光害が拡大する中、明確に改善を遂げた国もあります。Black Marbleのデータによれば、フランスは2014年から2022年にかけて夜間照明の放射量を33%も削減しました。これはフランスが2013年に施行した光害規制法で、深夜の商業施設の照明消灯やビルのライトアップ制限、店舗のショーウィンドウ照明の消灯時間などを細かく義務づけたことが大きく寄与しているとみられます。同様にイギリスは22%、オランダは21%の削減に成功しています。
ただし専門家は、2022年におけるヨーロッパ各国の減光の一部は、ロシアによるウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機で電力消費を切り詰めざるを得なかった事情も影響していると指摘しており、政策効果と外的要因を分けて評価する必要がありそうです。とはいえ、法規制という明確なルールを設けたことで、企業や自治体が「何を、いつまでに、どれだけ減らすか」という具体的な削減目標に取り組みやすくなった点は見逃せません。技術の進歩任せにするのではなく、制度設計そのものが結果を左右する好例と言え、エネルギーコスト削減という経済的メリットとも両立しやすいことから、他国が政策を検討する上でも参考になるモデルケースと言えるでしょう。
悪化する地域:中国・北インド・米国西海岸
一方で、光害が急速に悪化している地域も少なくありません。中国と北インドでは、経済成長と都市化に伴い、夜間照明が大幅に増加しています。急速な工業化と人口集中が、そのまま「明るすぎる夜空」に直結している格好です。米国内でも地域差が顕著で、西海岸では夜間照明がさらに明るくなった一方、東海岸ではむしろ暗くなる傾向が確認されました。東海岸の改善については、LED照明への切り替えが進んだことに加え、産業構造の変化による経済的な再編も一因とみられています。
興味深いのは、光害の増減が必ずしも国の豊かさだけで決まるわけではないという点です。経済発展の初期段階にある地域ほど道路や工場、住宅地、夜間営業の商業施設など照明インフラへの投資が急拡大しやすく、結果として夜空が急速に明るくなる傾向があります。逆に成熟した経済圏では、産業の縮小や効率化、人口の伸び悩みが進むことで、意図せず照明総量が減ることもあるのです。同じ国の中でも政策や産業構造次第でここまで差が出る点は、光害が単なる自然現象ではなく「地域ごとの選択と発展段階の結果」であることを物語っていると言えるでしょう。
明暗を分ける鍵はLED照明とエネルギー政策
各国・地域の明暗を分けた最大の要因は、LED照明の普及の仕方とエネルギー政策の違いにあると考えられます。LEDは省エネ性能に優れる一方、安価で設置しやすいため、対策なしに導入が進むとかえって照明総量が増え、光害を悪化させる皮肉な側面もあります。さらに、一般的なLED照明は青色光(波長の短い青みを帯びた光)を多く含みやすく、この青色光は大気中で拡散しやすいため、同じ明るさでも夜空をより広範囲に照らしてしまうことが指摘されています。
青色光は生態系や人間の概日リズム(体内時計、睡眠と覚醒を切り替える体内の周期)への影響も大きいとされ、蛾などの夜行性昆虫が街灯に集まって命を落とす現象や、渡り鳥が高層ビルの照明に迷って衝突する事故との関連も指摘されています。単に照明を省エネ型に替えれば良いという単純な話ではないのです。実際、フランスやイギリスのように規制と組み合わせてLED化を進めた国では削減に成功していますが、規制のないまま普及が進んだ地域では増加が続いています。つまりLED自体が問題なのではなく、「どの色温度の光を、どこに、どれだけの明るさで設置するか」というルール設計こそが、光害対策の成否を分けているのです。
私たちにできること:ダークスカイ・インターナショナルの提言
国際的な光害対策団体「ダークスカイ・インターナショナル(DarkSky International)」は、個人や自治体レベルでもすぐに実践できる対策として、次の4点を推奨しています。
- 不要な屋外照明を消す、または最小限にすること
- 照明器具を下向きに設置し、光が空に漏れないようにすること
- 暖色系(アンバー系)のLEDを選ぶこと
- 人感センサー付き照明を導入し、必要な時だけ点灯させること
同団体は世界各地の優れた星空環境を「国際ダークスカイ・プレイス」として認定する制度も運営しており、その数は世界で200か所以上にのぼります。実際にロサンゼルスやシカゴ、フェニックスといった米国の大都市でも、まぶしすぎる街灯をダークスカイ対応の照明に切り替える取り組みが広がっています。これらは特別な技術や多額の予算がなくても取り組める内容ばかりで、自治体レベルの大規模な政策だけでなく、個人の庭先の照明1つを見直すことからでも実践できます。
光害は”すぐに元に戻せる”珍しい環境問題
光害には、他の環境問題にはない大きな特徴があります。それは「照明を消せば、その瞬間から状況が改善する」という即効性です。大気中のCO2のように数十年から数百年単位で蓄積し続ける汚染とは異なり、光害は原因を取り除けば翌晩から星空が戻ってきます。
この「最も解決しやすい環境問題」という性質は、ダークスカイ・インターナショナルなど専門家の間でもたびたび指摘されており、光害対策が個人や自治体の小さな行動でも効果を実感しやすい分野であることを裏付けています。実際、フランスでは規制強化からわずか数年で衛星データ上にもはっきりとした変化が現れました。
まとめ
NASAのBlack Marbleプロジェクトが示したのは、光害は世界的な拡大傾向にあるものの、フランスをはじめとする一部の国では確かな改善が進んでいるという事実です。LED照明の普及方法と、それを支える政策次第で、光害は増えることも減ることもある——つまり私たち自身の選択次第で変えられる問題だと言えます。
今夜、自宅や職場の周りの照明を少し見直してみることが、星空を取り戻すための小さな、しかし確実な第一歩になるかもしれません。
出典: EarthSky「Good news! Here’s where light pollution is getting better」(https://earthsky.org/earth/good-news-where-light-pollution-is-getting-better-maps/) をもとに作成。