Hikari Wooder
光害対策で注目を集める石油・ガス産業の取り組み
私たちの生活に欠かせない人工照明。
しかし、その過剰な使用が引き起こす光害は、美しい夜空を脅かす深刻な問題となっています。
そんな中、意外な分野から光害対策の新たな取り組みが始まっています。
ニューメキシコ州の石油・ガス産業が、星空保護に向けた画期的な取り組みを行い、世界中から注目を集めているのです。
産業と自然保護の共存を目指して
石油・ガス産業による先駆的な取り組み
ニューメキシコ州南東部の主要な石油生産地帯で、デンバーを拠点とするフランクリン・マウンテン・エナジー社が行った照明改善プロジェクトが、国際ダークスカイ協会（DarkSky International）から初の認証を受けました。
この取り組みは、既存の2サイトと新設1サイトで実施され、カールズバッド洞窟国立公園など、天体観測愛好家や夜間ハイキング愛好家に人気のスポットでのスカイグロー（夜空の明るさ）を軽減することが期待されています。
具体的な取り組みには以下のようなものがあります：
- 作業員の安全を確保しつつ、電力消費を削減する照明の変更
- 連邦土地・公園局、天体観測所、ニューメキシコ石油・ガス協会との協力
- 作業エリアに光を下向きに照射し、上方への光の拡散を制限する機器の使用
これらの取り組みは、産業活動と自然環境保護の両立を目指す画期的な試みとして評価されています。
光害問題の深刻化と対策の必要性
光害問題の深刻さは、近年の研究でも明らかになっています。
2023年に5万人以上のアマチュア天文家のデータを分析した研究によると、人工照明により世界の夜空が毎年約10%ずつ明るくなっているとされています。
また、2016年の時点で世界人口の80%以上が天の川を見ることができない光害の影響下で生活しているという報告もあります。
こうした状況を受け、ニューメキシコ州では1999年に制定された屋外夜間照明規制法の改正案が検討されています。
これは、エネルギー効率の高いLED技術の進歩に伴い、遮光されていない屋外夜間照明が急増したことへの対応策です。
国立公園局の取り組みと観光への影響
国立公園局も、チャコ文化国立歴史公園など、人里離れた場所での暗い夜空の保護を優先事項としています。
チャコ文化国立歴史公園では、公園の99%以上に恒久的な屋外照明がないという徹底ぶりです。
こうした取り組みは、天体観測を目的とした観光（アストロツーリズム）の振興にもつながっています。
ニューメキシコ州には、国際ダークスカイ協会が認定するゴールドティアおよびシルバーティアのダークスカイパークがあり、星空観賞スポットとして人気を集めています。
光害対策の広がりと今後の展望
他産業への波及効果
フランクリン・マウンテン・エナジー社の取り組みは、産業界全体に大きな影響を与える可能性があります。
同社の共同創業者であるオードリー・ロバートソン氏は、この照明改善を「ウィン・ウィンのソリューション」と表現し、作業員の安全を確保しながらスカイグローを減少させることができると述べています。
この成功事例は、他の産業にも光害対策の重要性を認識させ、同様の取り組みを促す契機となるでしょう。
特に、24時間稼働する工場や物流施設など、夜間の照明を必要とする産業への波及効果が期待されます。
https://www.yahoo.com/news/oil-gas-company-recognized-reducing-140009783.html
地域社会との協力
光害対策の成功には、産業界だけでなく、地域社会全体の協力が不可欠です。
ニューメキシコ州では、「Dark for the Park Alliance」と呼ばれる連合が結成され、カールズバッド洞窟国立公園、チャコ文化遺産公園、ニューメキシコ石油・ガス協会、土地管理局、ニューメキシコ州土地局、天文台、ダークスカイ推進団体など、多様な組織が参加しています。
この連合は、石油・ガス企業向けの照明マニュアルを作成し、新規開発や既存の掘削現場、処理施設の改修時に採用を推奨しています。
マニュアルには、光を地面に向けて照射する方法や、照明の計画、遮光、強度、色に関する戦略が含まれています。
技術革新の可能性
光害対策は、照明技術の革新にもつながる可能性があります。
例えば、必要な時だけ必要な場所を照らすスマート照明システムの開発や、星空への影響を最小限に抑える特殊な波長の光源の研究など、新たな技術開発の機会が生まれるかもしれません。
これらの技術革新は、エネルギー効率の向上にもつながり、環境保護と経済性の両立を実現する可能性を秘めています。
光害対策がもたらす多面的な効果
生態系への影響
光害対策は、単に美しい星空を取り戻すだけでなく、生態系の保護にも大きな意味を持ちます。
人工的な夜間照明は、多くの生物の行動や繁殖に悪影響を与えることが知られています。
例えば、毎年数百万羽の渡り鳥が、不必要な人工照明によって命を落としています。
また、ウミガメの子どもたちは、海の方向を見失い、内陸に向かって歩いてしまうことがあります。
光害を減らすことで、これらの生物たちの生存率を高め、生態系のバランスを保つことができるのです。
健康への影響
人間の健康にとっても、光害対策は重要です。
夜間の過剰な光は、私たちの体内時計を狂わせ、睡眠障害やホルモンバランスの乱れを引き起こす可能性があります。
特に、青色光を多く含む照明は、メラトニンの分泌を抑制し、睡眠の質を低下させることが知られています。
適切な照明設計により、これらの健康リスクを軽減し、より良質な睡眠と健康的な生活リズムを取り戻すことができるでしょう。
まとめ – 星空を守る、未来への投資
ニューメキシコ州の石油・ガス産業による光害対策の取り組みは、産業と環境保護の共存という新たな可能性を示しています。
この取り組みは、単に美しい星空を取り戻すだけでなく、生態系の保護、エネルギー効率の向上、人々の健康増進など、多面的な効果をもたらす可能性を秘めています。
私たちひとりひとりが、日常生活の中で光の使い方を見直すことから始め、地域全体で光害対策に取り組むことで、未来の世代に美しい星空を残すことができるでしょう。
星空を守ることは、私たちの住む地球全体の健康を守ることにつながるのです。
補足情報 – 光害対策のための簡単な取り組み
家庭でも簡単にできる光害対策があります。例えば：
- 必要のない外灯は消す
- 照明器具を下向きに設置し、光が空に漏れないようにする
- 暖色系のLED電球を使用する
- モーションセンサーや調光器を活用し、必要な時だけ点灯する
これらの小さな取り組みが、大きな変化につながります。
私たちひとりひとりが、星空を守る担い手となれるのです。
