
鳥の渡りは、毎年、何百万羽もの鳥が季節に合わせて長距離を移動しています。そんな鳥たちの旅を、最新の技術を使って詳しく追跡しているのが、「BirdCast」というウェブサイトです。

北米大陸の渡り鳥の情報を提供
BirdCastは、北米大陸全体の渡り鳥の動きを追跡・予報しているウェブサイトです。
このサイトは、アメリカ、カナダ、メキシコの研究機関が協力して運営しており、気象レーダーデータと市民参加型の鳥類観察データを組み合わせて、北米大陸全域の渡り鳥の移動を可視化しています。
BirdCastが提供する情報には、移動予報マップ、リアルタイムマップ、地域別の詳細データなど、北米大陸全体の渡り鳥の動きに関する包括的なデータが含まれています。 しかし、日本国内の渡り鳥に関する情報は含まれていません。
日本の代表的な冬鳥には、マガモ、コガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、マガン、オオハクチョウなどがいますが、これらの鳥の動きはBirdCastでは追跡されていません。
日本の渡り鳥に関する情報は、環境省や山階鳥類研究所などの国内の機関が提供しているウェブサイトで確認する必要があります。
BirdCastの開発
渡り鳥を追跡する技術は長い年月をかけて進化してきました。1990年代後半、科学者たちは限られたデータから手作業で渡りの予測を行っていました。しかし2010年代に入り、技術の進歩、クラウドコンピューティング、機械学習の発達によって、気象レーダーのデータを本格的に活用できるようになりました。
コーネル大学のベンジャミン・ヴァン・ドーレンとカイル・ホートンは、機械学習の高度な手法を使って20年分の鳥とレーダーのデータを分析し、夜間に渡る渡り鳥の数を大気条件から予測できることを発見しました。この発見は渡り鳥の数を見積もる上で大きな飛躍となりました。
彼らはこの発見を基に、鳥のデータと気象予報を組み合わせた予測モデルを作りました。2018年にはこのモデルに基づく簡単に見られる渡り鳥の地図が「BirdCast」というウェブサイトで公開されました。
データのビジュアル化でよりわかりやすく
しかしコーネル大学鳥類研究所のアンドリュー・ファーンズワースは、渡りの規模をさらに分かりやすく示す方法を検討していました。2021年後半、データビジュアライゼーションの専門家オードリー・カールセンとチームが新しいダッシュボードのアイデアを思いつきます。わずか6か月足らずの開発期間で、リアルタイムで地域の渡り鳥の数、飛行方向、高度などを表示できる革新的なツールが完成しました。
このダッシュボードでは、夜間に渡った渡り鳥の実際の数値が表示されるのが大きな特徴です。視覚的にも分かりやすく、渡りの壮大さを実感しやすくなりました。過去のデータと組み合わせれば、いつ渡りのピークを迎えるかなども把握できます。
BirdCastの開発は、長年の科学者たちの努力の上に成り立っています。気象レーダーのデータを機械学習で解析したことで、渡りを数値化する第一歩が踏み出され、さらにデータビジュアライゼーションの技術が加わったことで、誰もが容易に理解できるツールへと進化を遂げました。BirdCastは渡りの不思議や生態を体感するのに役立つ革新的な技術なのです。
鳥の渡りの基礎知識
鳥の渡りには、いくつかの主要な経路があります。北米には、大西洋フライアウェイ、ミシシッピーflyway、中央flyway、そして太平洋flyway の4つの主要な渡り道があり、それぞれ南北に延びています7。鳥たちは、餌や繁殖地を求めて、この経路に沿って移動しています6。特に太平洋flyway は、北米西海岸から南米パタゴニアまでを結ぶ大規模な経路です5。
BirdCastが提供する機能
BirdCastは、この壮大な鳥の移動を詳しく追跡し、その情報を一般の人々に提供しています。主な機能は以下の通りです。
渡り鳥の予報

BirdCastホームページで最初に表示されるのは、3日間の予報地図です。この地図は、日の入り後3時間の夜間渡りを予測しています。3日間のデータ(1日1枚)を提供し、6時間ごとに更新されます。色が明るいほど渡りの規模が大きくなります。この地図には、局所的に渡りに影響を与えうる気象システムも組み込まれています。
天気予報と同様に、この地図には風速、風向、気圧、気温、そして25年分の渡りデータなど、複数の変数が組み込まれています。これによって、今後数日間の渡りの様子を把握できます。
夜間の渡り鳥の数の推定値
ダッシュボードでは、前夜に渡った渡り鳥の数の推定値が表示されます。例えば、ニューヨーク郡では数千羽だったかもしれませんが、ニューヨーク州全体では800万羽以上にもなる可能性があります。5月の大渡りの夜には、米国本土で4億羽以上が移動していたと予測されています。
リアルタイム渡りマップ
実際の鳥の移動を、全米の気象レーダーネットワークのデータから分析し、リアルタイムで表示しています。鳥の移動量や方向を把握できます。
渡りダッシュボード
州や郡レベルで、レーダーデータから得られる詳細な統計情報を提供しています。1日の総移動鳥数、ピーク時の移動強度、過去との比較などがわかります。
また、渡り鳥の飛行方向、速度、高度のデータも確認できます。この情報を使えば、いつどこで鳥を観察するのが良いかを判断しやすくなります。
予想される渡り鳥種のリスト
eBirdの20年間の観察記録からその地域で観察できる可能性の高い種類をリストアップしているので、初心者でも事前に調べておけます。
地域の渡り警報
ユーザーの居住地域で大規模な鳥の移動が検知されると、アラートを送信します。これは、光害対策などの保護活動に役立ちます。
BirdCastは単に渡りの量を知らせるだけでなく、様々な詳細データを組み合わせることで、最適な鳥観察の機会を見つけるのに役立ちます。また、建物への鳥の衝突リスクを察知したり、保護活動のタイミングを計ったりと、鳥の保護にも貢献できるツールなのです。
先進的な技術とデータの活用
BirdCastは、鳥の渡りを研究する先進的な技術を活用しています。気象レーダーのデータ解析、eBirdなどの市民科学プロジェクトのデータ、そして飛翔音モニタリングなど、様々な手法を組み合わせて、鳥の移動を詳細に把握しています。
また、BirdCastのデータは、気候変動が鳥の渡りに与える影響を理解するのにも役立ちます。気候変動は鳥の生息地や渡りのタイミングを変化させ、深刻な影響を及ぼす可能性があります。BirdCastのデータを活用して、この問題に取り組むことができます。
まとめ
BirdCastは、最先端の技術を使って、北米全域の鳥の大移動を詳しく追跡し、一般の人々に提供しています。
渡り予報、リアルタイムマップ、詳細な統計情報、地域の警報など、様々な機能を備えており、鳥の保護活動や気候変動研究にも役立つ、非常に魅力的なウェブサイトです。
鳥の渡りに興味のある人は、ぜひ一度BirdCastを訪れてみてください。