
ImpactMagazineの最新記事「SKY GRIEF: WHAT CAN WE DO ABOUT LIGHT POLLUTION?(空の悲しみ: 光害に対して私たちは何ができるのか?)」では、私たちが失いつつある美しい星空の問題に焦点を当てています。
光害の深刻化により、多くの人々が夜空の輝きを見られなくなっている現状が報告されています。
はじめに
星空の輝きが失われることは、私たちが太古の昔から持っていた「星を見上げる」という基本的な体験を失わせています。
この問題は決して一部の地域だけの問題ではありません。英国の50%以上の地域で、たった10個しか星が見えないという深刻な事態が発生していると、この記事では警鐘を鳴らしています。
光害の現状と解決策
光害の主な原因は、道路、企業、街灯、そして宇宙に浮かぶ反射性衛星からの光です。この問題に取り組むためには、地域社会の協力が重要になってきます。
国立公園などの地方の地域では、すでに「ダークスカイ・パーク」 (International Dark Sky Parks)の認定を受けるほど、きれいな夜空が保たれています。こうした地域では、地域住民や団体による「The Big Switch Off」といったイベントが開催され、照明を一斉に消すことで、美しい星空を取り戻す取り組みが進められています。
The Big Switch Off(ビッグスイッチオフ)
電気の節約を促進しながら、夜空の美しさを紹介するための行動をすることです。
一方、大都市部での光害対策は容易ではありません。
米国のフィラデルフィアでは、鳥の迷途を防ぐため、「Lights Out Philly」と呼ばれる取り組みが成果をあげています。鳥の死亡率を80%も減らすことができたというのは、地域の協力が光害対策に大きな影響を与えることを示しています。
Lights Out Philly(ライツ・アウト・フィラデルフィア)
2021年4月に開始され、アメリカフィラデルフィアの100以上の商業、住宅、自治体の参加者が参加しています。鳥が人工照明に引き寄せられて建物に衝突するのを防ぐため、鳥の渡り時期に、建物の照明を可能な限り消灯するボランタリー・プログラムです。
個人ができること
地域レベルでの取り組みは重要ですが、個人としてもできることがあります。
必要最小限の照明の使用や、省エネ性の高いLED照明の採用などが挙げられます。何より、この問題への理解を深め、地域の取り組みを後押ししていくことが大切です。
LED照明について
この記事内で言及している通り、LED照明は確かに省エネ性に優れていますが、光害への配慮も重要です。LED照明の白色光は短波長成分が多く、夜空に拡散しやすいため、光害を引き起こしやすい傾向にあります。
一方、電球色のLED照明は長波長成分が多く、夜空への影響が小さいため、光害の軽減に適しています。
したがって、LED照明を使用する際は、光害対策として以下のような配慮が必要です。
- 相関色温度が低い(電球色)LED照明の使用
- 配光制御による光の漏れ防止
- 人感センサなどによる必要時のみの点灯
- 照明の適切な配置と光量の調整
このように、LED照明の省エネ性と光害への配慮のバランスを取ることが重要です。

生態系への影響
光害は、単に夜空の美しさを失わせるだけでなく、生態系への悪影響も指摘されています。鳥類の迷走による衝突事故が多発していることが問題視されており、年間最大10億羽もの鳥が犠牲になっているとの指摘もあります。
地域・企業の取り組み事例
長野環境パートナーシップ会議
市民、企業、政府が協力して環境保全活動を行っています。光害対策プロジェクトもその一環です。
光害対策プロジェクトの主な取り組みは以下の通りです。
- 光害の実態把握:毎年150~250箇所で夜空の明るさ調査を実施し長期的な変化を把握する。
- 啓発活動:光害啓発パンフレットを作成・配布したり、市民参加のイベントを開催し、光害問題について普及啓発を行っている
- 行動計画の策定:理想の街の目標を設定し、市民、事業者、行政それぞれの行動指針を策定。
- 行政施策への反映:調査結果を基に、公共施設の光害対策について行政に提言
このように、長野市の光害対策は、さまざまな主体が協力して光害の現状把握、啓発活動、行動計画の策定など、総合的な取り組みを進めている事例となっています。
https://www.pref.nagano.lg.jp/mizutaiki/kurashi/shizen/taiki/documents/naganosi.pdf
長野県阿智村の活動
阿智村浪合地区における光害対策への取り組み事例です。
- 星空観察会の実施:年間を通して定期的に星空観察会を開催し、観察会の中で、光害対策の必要性についての講義も実施している。
- 宿泊施設への天体望遠鏡・双眼鏡の貸し出し
- 写真集やタペストリーの製作:浪合地区の美しい星空の写真を使ったパンフレットや大型タペストリーを作成し、宿泊施設や学校などに展示し、星空の魅力を PR
https://www.pref.nagano.lg.jp/mizutaiki/kurashi/shizen/taiki/documents/atimura.pdf
株式会社アグリライト研究所
農作物への光害に対するソリューションを提供する企業の事例です
- 専門家による光害影響の診断:「光害コンサルタント」として、夜間照明が農作物に及ぼす影響を専門家が診断するサービスを提供。
- 光害を抑える特殊LED照明の開発:「光害阻止LED照明」として、農作物への影響を最小限に抑えられるLED照明の技術を開発。
- 光害に関する啓発活動の支援:社内研修会や地域の講演会など、光害に関する知識を深めるための啓発の機会を提供。
- 研究成果の情報提供:論文や報告書を調査し、農作物への光害に関する最新の研究成果を提供。
https://www.agri-light-lab.co.jp/?page_id=2962
光害は私たちの生活環境に密接に関わる問題です。地域の取り組みを参考に、私たちも日常生活でできる光害対策を意識してみましょう。
まとめ
私たちが失いつつある美しい夜空を取り戻すためには、地域の取り組みと個人の行動が重要です。
「sky grief(夜空の悲しみ)」に負けずに、地域が一丸となって光害対策に取り組むことで、きれいな星空を取り戻すことができるはずです。一人一人ができることから始め、地域を巻き込んでいく。そうした地道な努力が、未来につながる解決策となるのです。