夜の環境を明るくするために使われる屋外の明るい人工光は、景観を美しくし、安全性を高めるために欠かせません。しかし、その一方で過剰な人工照明の使用は、光公害の増加につながり、人体に悪影響を及ぼす可能性があると指摘されています。今回は、夜間の人工光の暴露と脳卒中のリスクの関係を調査した最新の研究結果をご紹介します。

Outdoor Light at Night, Air Pollution, and Risk of Cerebrovascular Disease: A Cohort Study in China
(夜間の屋外光、大気汚染と脳血管疾患リスク: 中国におけるコホート研究)

心血管系への悪影響

アメリカ心臓協会の学術雑誌「Stroke」に掲載された研究によると、夜間の明るい人工光に継続的にさらされている人は、脳血流障害のリスクが高まる可能性があるということが分かりました。これまでも人工光が睡眠の質を低下させ、心血管系に悪影響を及ぼすことが指摘されていましたが、今回の研究は脳卒中のリスクとの関連性を示した点で新しい知見となっています。

光害とは

まず、光害とは何かを簡単に説明しましょう。光害とは、過剰な人工光が乱反射し、夜空を明るくしてしまう現象のことです。研究によると、世界人口の約80%が光害に晒されている環境下で生活しているそうです。

研究の概要

今回の研究は、中国の浙江大学の研究チームが行ったもので、人口820万人の寧波市に住む28,302人の成人を対象としています。研究期間は6年間で、衛星画像から住宅地の夜間照明レベルを推定し、脳卒中の発症状況と照明レベルの関係を分析しています。

その結果、夜間の屋外照明が最も強い人は、最も弱い人に比べて脳血管疾患(脳卒中など)のリスクが43%高いことが分かりました。さらに、大気汚染物質(PM2.5、PM10、窒素酸化物)の暴露レベルが高いほど、脳血管疾患のリスクが高まることも明らかになりました。

研究者らは、夜間の人工光による睡眠障害がメラトニン*の生成を阻害し、体内リズムを乱すことで、結果として脳卒中のリスク増加につながったと考えられると述べています。

メラトニン

睡眠を促進するホルモン

健康的な照明環境への提言

今回の研究結果は、夜間の人工照明が光公害として環境問題に留まらず、人体への深刻な影響をもたらしている可能性を示唆するものです。近代化が進むにつれ、夜間照明の需要は高まる一方ですが、健康被害を最小限に抑えるための対策が求められます。個人レベルでは、就寝前の照明を控えめにしたり、遮光カーテンを使用するなどの対策が有効でしょう。また、自治体による照明規制の導入なども検討する必要があるかもしれません。

照明技術の向上により、光の漏れを抑えつつ、必要最低限の明るさを確保する照明の開発が望まれます。光の質やタイミングなど、人体に優しい照明の在り方を追求することが重要です。製品開発時の安全性評価にも、照明の健康影響を考慮する必要があるでしょう。

まとめ

生活環境の改善は、健康リスクの低減につながります。照明は現代生活に不可欠ですが、過剰な人工光による弊害も無視できません。今回の研究結果を受け、光による健康被害を最小限に抑えつつ、安全で快適な生活環境を実現するための対策が求められます。産官民が連携し、照明の健康影響を慎重に検討していく必要があります。