近年、地球の周回軌道には数万に及ぶ通信衛星が打ち上げられ、インターネット環境の拡充や経済活動の新たな舞台として注目を集めています。

しかしその一方で、光を反射して夜空に光の筋を作る衛星が、天文学の観測を大きく妨げる問題となっています。

特に、超高解像度カメラを駆使する最先端の地上望遠鏡、米国のルービン天文台などが受ける影響は深刻です。

光害問題の解決に向け、衛星開発企業と天文学者が協力しながら両者が「空」を分かち合う試みが進んでいます。

本記事は、米国の科学誌「Scientific American」に掲載された「Can Astronomers and Satellite Operators Learn to Share the Sky?」という記事を紹介し、その内容をもとに解説しています。

https://www.scientificamerican.com/article/starlink-and-astronomers-are-in-a-light-pollution-standoff

衛星が急増することで生じる天文学への光害問題を軸に、最先端の望遠鏡を守るための天文学者と衛星運用企業の協力の現状と課題をわかりやすくお伝えします。

宇宙インフラの発展と科学観測の両立をどう実現できるのか、注目すべきポイントを解説します。

光る衛星がもたらす天文学への影響

まず、衛星が天文観測にもたらす具体的な問題点を理解しましょう。

軌道上を航行する衛星は太陽光を反射し、望遠鏡の視野を横切るときに光の筋を画像に残します。これが天体の観測データを妨害し、重要な天体現象の見落としや誤認につながるのです。

レモン彗星と衛星の軌跡

特にルービン天文台は、地上に設置された世界最大のデジタルカメラで全天写真を撮影するため、衛星の光害の影響を強く受けやすいといえます。

衛星は現在約1万3000機以上が地球を周回し、その半数以上はSpaceXのスターリンク衛星が占めています。

これらの衛星の数は将来さらに膨れ上がる見込みであり、天文学への影響は深刻化しています。

衛星運用者と天文学者の協力への取り組み

この問題を受け、衛星企業と天文学者は協調路線を模索しています。

SpaceXは初代の衛星で暗色の塗装や「サンシールド」を採用し、地上からの視認性を減らそうと試みましたが、空気抵抗による軌道維持の問題から撤退。

次世代衛星では反射光を地上と反対方向に反射する特殊なミラーや黒色塗装で改善策を講じています。

さらに、米国国立科学財団(NSF)と複数の衛星事業者は、運用スケジュールや観測方向をリアルタイムで共有し、衛星が天文台の観測方向を避けるシステムを開発しています。

この「Operational Data Sharing (ODS)」システムは、スターリンクと米国内の主要な電波望遠鏡で試験運用されており、望遠鏡の観測妨害を大幅に低減する可能性を秘めています。

世界的な調整と政策の必要性

一方で、この問題を解決するには国際的な連携が不可欠です。

宇宙空間を利用する企業や観測機関は世界中に散らばり、どの一国だけでは規制や協調を進められません。

国連の宇宙平和利用委員会(COPUOS)も、国家間の協力推進を提唱していますが、具体的な規制案はまだ整っていません。

衛星軌道の高度制限や光学的・電波的妨害の抑制など、技術面以外の政策的対応も求められる状況です。

また、SNSやニュースでは、天文学者の活躍を支持する声と、衛星ネットワークによる社会インフラ整備の両面からの議論が活発に繰り広げられています。

ユーザーからは、より透明な情報共有や開発企業の責務を求める声も多く聞かれます。

衛星光害問題の現場から見た展望

天文学者は現在、一部の光害を「フロントガラスの虫」と表現し、小さな妨害ではあるが完全には無視できない存在として捉えています。

ルービン天文台のチーフサイエンティストは、この「明るすぎるヘッドライト」が宇宙の細部を観測する上で大きな障害になると懸念を示しています。

それでも、多くの天文学者は、技術革新と業界との協力により、何とか妥協点を見つけながら科学的発見を続けていけるとの楽観も抱いています。

しかし、衛星の数が急増する現状では、「科学コミュニティが何かを犠牲にする覚悟」が必要であり、適切な規制と企業の協力なくしては、その犠牲は大きくなりかねません。

電波天文学への影響と対策

光学観測に加え、電波望遠鏡への電波干渉も深刻な問題です。

スターリンクなど低軌道衛星は地上の電波望遠鏡の観測周波数に妨害を及ぼす恐れがあります。

そこで、米国の国立電波天文台(NRAO)とSpaceXは衛星運用と望遠鏡観測をリアルタイムで連携するシステムを開発。

観測中の望遠鏡の指向方向を衛星に伝え、電波ビームを回避させる「Telescope Boresight Avoidance」アルゴリズムを導入しています。

これにより、リモート地域の住民に高速インターネットを提供しつつ、科学観測も確保する両立を目指しています。

まとめ

急増する衛星群は世界の通信環境を変革する一方で、天文学にとって深刻な光害と電波干渉を引き起こしています。

SpaceXや複数事業者と天文学者の協力、リアルタイムのデータ共有システム、そして国際的な政策連携が、未来の宇宙観測を守る鍵となります。

天文観測と衛星インフラの共存は「天空の新たな共生モデル」を模索する壮大な挑戦です。

読者の皆さまも、この問題に関心を持ち、議論を広げることが重要です。