Hikari Wooder
衛星コンステレーションがもたらす天文学への脅威と環境問題
夜空を見上げると、無数の星々が輝き、私たちを魅了します。
しかし、近年、その美しい星空に異変が起きています。
それは、人工衛星の増加による光害（ひかりがい）です。
特に、スペースX社のスターリンクをはじめとする衛星コンステレーション（多数の人工衛星を連携させて通信サービスを提供するシステム）は、天文学の観測を妨げ、地球環境にも影響を与える可能性が指摘されています。
この記事では、Astronomy magazineチャンネルのYouTube動画「SpaceWaves 25: Examining Effects of Space Commercialization on Light Pollution and the Environment」の内容を基に、宇宙ゴミ（スペースデブリ）問題の現状、衛星コンステレーションが天文学に与える影響、そして大気圏再突入時の環境問題について、専門家の意見を交えながら詳しく解説します。
美しい星空を守るために、私たちができることは何でしょうか。
YouTube動画「SpaceWaves 25」の内容紹介
スペースウェーブとは？
Astronomy magazineが提供するYouTubeチャンネル「SpaceWaves」では、宇宙に関する様々なトピックが取り上げられています。
今回紹介する「SpaceWaves 25: Examining Effects of Space Commercialization on Light Pollution and the Environment」では、宇宙の商業化が光害や環境に与える影響について議論されています。
専門家による議論 – メレディス・ロス氏とホセ・ペドロ・フェレイラ氏
動画には、ワシントン大学の天文学者メレディス・ロス氏と、南カリフォルニア大学の航空宇宙工学博士研究員ホセ・ペドロ・フェレイラ氏が出演しています。
ロス氏は、衛星コンステレーションが天文学に与える影響について、フェレイラ氏は、衛星の大気圏再突入による環境問題について、それぞれの専門分野から意見を述べています。
衛星コンステレーションがもたらす天文学への影響
天文学者の懸念 – 光害という新たな脅威
天文学者は、以前から人工衛星の光害に悩まされてきました。
人工衛星は太陽光を反射し、夜空に光跡（こうせき）を描きます。
特に、多数の人工衛星が低軌道（ていきどう）を周回する衛星コンステレーションは、その影響を深刻化させています。
動画の中で、ロス氏は「2019年から2020年頃、低軌道衛星の増加が天文学者のレーダーに引っかかり始めた」と述べています。
彼女が所属するベラ・C・ルービン天文台（Veris C Rubin Observatory）は、チリに建設中の次世代型大型望遠鏡で、夜空を高解像度で動画撮影し、天文学のあらゆる分野に革命をもたらすと期待されています。
しかし、衛星コンステレーションは、その観測に影響を与える可能性があります。
ロス氏が衝撃を受けたのは、ダークエネルギーカメラで撮影された画像でした。
そこには、12機以上の衛星が光跡を残し、星の観測を妨げている様子が写っていました。
この画像は、光害問題の象徴的なイメージとして、国立自然史博物館の展示にも使用されています。
データ解析の負担増 – 光跡除去という新たな課題
衛星の光跡は、天文学の観測データを汚染し、データ解析の負担を増加させます。
ロス氏は、「天文学者は、データのノイズや汚染に対処するために、本来の研究時間を割かざるを得なくなっている」と述べています。
彼女自身も、国際天文学連合（IAU）の組織である「衛星コンステレーションからの干渉に対する暗く静かな空の保護センター（CPS）」の活動に多くの時間を費やしています。
CPSの目的は、衛星コンステレーションに関するデータを収集し、問題点を調査し、地上からの天文学観測を支援することです。
ロス氏は、衛星事業者や産業界の専門家と協力し、問題の定量化、緩和策の開発、情報交換に取り組んでいます。
ヴェラ・C・ルービン天文台への影響と対策
ヴェラ・C・ルービン天文台は、衛星コンステレーションの影響を受けるものの、対策を講じることで素晴らしい科学的成果を上げることができると期待されています。
データパイプラインの開発に携わるロス氏は、画像から光跡を除去するソフトウェアの開発に取り組んでいます。
衛星の大気圏再突入による環境問題
増加する再突入衛星 – 5年ルールという新たな潮流
動画の中で、フェレイラ氏は、増加する衛星の大気圏再突入（たいきけんさいとつにゅう）による環境問題について研究しています。
衛星の小型化、技術革新のスピード、分散型システムの普及により、軌道上のオブジェクトの数は増加の一途をたどっています。
フェレイラ氏によると、米国連邦通信委員会（FCC）は、軌道上での寿命を短縮する「5年ルール」を義務付けています。
これは、米国で事業を行うすべての企業に対し、ミッション終了後5年以内に衛星を軌道から離脱させ、大気圏に再突入させることを義務付けるものです。
このルールは、軌道上のスペースデブリ（宇宙ゴミ）を削減することを目的としていますが、大気圏再突入時の環境問題を引き起こす可能性が指摘されています。
大気汚染 – アルミニウムがもたらす脅威
衛星の大気圏再突入時には、衛星を構成する金属が蒸発し、大気中に放出されます。
フェレイラ氏が最も懸念しているのは、アルミニウムです。
衛星の構造は、主にアルミニウム合金で作られており、大気中に大量のアルミニウムが放出される可能性があります。
アルミニウムは、放射強制力（ほうしゃきょうせいりょく。地球の気候システムに影響を与える要因）に影響を与え、気候変動を加速させる可能性があります。
また、成層圏（せいそうけん）のオゾン層（オゾンそう）に影響を与え、高高度の雲の形成を促進する可能性も指摘されています。
過去のロケット打ち上げ実験 – オゾン層破壊の懸念
1990年代には、ロケット打ち上げによる成層圏への物質注入が、オゾン層に与える影響について研究が行われました。
その結果、ロケットの排気ガスに含まれる塩素や窒素酸化物が、オゾン層を破壊する可能性があることが示唆されました。
衛星の大気圏再突入も、同様のメカニズムでオゾン層に影響を与える可能性があります。
宇宙開発と持続可能性
宇宙デブリ問題の深刻化
宇宙デブリ（スペースデブリ）は、役目を終えた人工衛星やロケットの破片など、宇宙空間に存在する人工物のことです。
宇宙デブリは、他の人工衛星や宇宙ステーションに衝突する危険性があり、宇宙開発の持続可能性を脅かしています。
国際的な取り組みの必要性
宇宙デブリ問題の解決には、国際的な協力が不可欠です。
各国が協力し、スペースデブリの発生を抑制し、除去技術を開発する必要があります。
また、衛星の設計や運用においても、環境への配慮が求められます。
まとめ
衛星コンステレーションは、通信サービスの向上や地球観測など、多くのメリットをもたらしますが、天文学への影響や環境問題を引き起こす可能性も秘めています。
宇宙開発を持続可能なものにするためには、光害や大気汚染といった問題を克服し、環境に配慮した技術開発を進める必要があります。
美しい星空を未来に残すために、私たちは宇宙開発のあり方を見直し、持続可能な宇宙利用を目指すべきです。
