
[CNN scienceの記事をご紹介します。]
この記事は、CNNの環境問題に関する報道シリーズ「Call to Earth」の一部として掲載されました。光害問題の現状と解決策に焦点を当て、持続可能な社会の実現に向けた意識を高めることを目的としています。
「1977年7月13日、ニューヨーク市で発生した大停電の夜、街の明かりが消えたとき、何十年ぶりかで天の川が夜空に現れた」
CNNの記事は、この劇的な出来事から始まります。
現代社会において、人工的な光が夜空を明るく照らし、星が見えなくなる「光害」が深刻化しています。
この記事では、光害の現状、原因、影響、そして対策について、CNNの記事を基に詳しく解説します。
光害とは何か?
光害(ひかりがい・Light pollution)とは、不適切な、または過剰な人工照明が原因で発生する、夜空の明るさが増す現象です。
これにより、星が見えにくくなるだけでなく、人間や動植物の生態系にも悪影響を及ぼすことが知られています。
光害は、主に以下の4つの形態で現れます。
- スカイグロー(Skyglow): 大気中の粒子や水蒸気によって散乱された光が、空全体を明るくする現象。都市部で顕著に見られます。
- 光害侵入(Light trespass): 意図しない場所に光が漏れ出す現象。例えば、街灯の光が住宅の窓から侵入するなど。
- グレア(Glare): 強い光が直接目に入ることで、視覚的な不快感や眩しさを引き起こす現象。
- クラッター(Clutter): 過剰な照明や、不必要な数の照明器具が設置されることによって、視覚的な混乱を引き起こす現象。
深刻化する光害の現状 – 数値で見る脅威
光害は、世界的に深刻化しており、特に北米での変化が顕著です。
- 天の川が見えない人々: 北米では、人口の80%が天の川を肉眼で見ることができません。これは、都市部を中心に光害が深刻化していることを示しています。
- 夜空の明るさの増加: 世界の夜空は、平均して年間10%ずつ明るくなっています。このペースで光害が進むと、数十年後には、現在よりもさらに多くの場所で星が見えなくなる可能性があります。
- 野生生物への影響: 米国では、年間最大10億羽の鳥が、明るい光に引き寄せられて建物に衝突し死亡しています。また、海ガメは、産卵のために海岸に上陸する際、人工的な光に惑わされ、海に戻れなくなることがあります。
光害がもたらす悪影響 – 生態系と人体への影響
光害は、単に星が見えなくなるだけでなく、生態系や人体にも深刻な影響を及ぼします。
生態系への影響
- 動物の行動: 渡り鳥は、光害によって移動経路を誤り、エネルギーを浪費したり、危険な場所に迷い込んだりすることがあります。また、夜行性の動物は、光害によって狩りが困難になり、生存率が低下する可能性があります。
- 植物の成長: 光害は、植物の開花時期や落葉時期を変化させることがあります。これにより、植物の生殖サイクルが狂い、生態系のバランスが崩れる可能性があります。
- 海への影響: 海ガメの孵化は、月の光を頼りに海へ向かいますが、光害によって方向感覚を失い、陸に取り残されてしまうことがあります。
人体への影響
- 睡眠障害: 夜間の人工的な光は、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制し、睡眠の質を低下させることがあります。
- 健康リスク: 研究によれば、光害は、肥満、うつ病、糖尿病、がんなどの健康リスクを高める可能性があります。
- 体内時計の狂い: 人間の体内時計は、光と闇のサイクルに同調していますが、光害によってこのサイクルが乱れ、様々な健康問題を引き起こす可能性があります。
光害対策 – 私たちにできること
光害問題は、解決が難しい問題ではありません。適切な対策を講じることで、光害を大幅に軽減し、美しい星空を取り戻すことができます。
個人レベルでできること
- 照明の見直し: 家庭で使用する照明器具を見直し、必要以上に明るい照明や、光が上方向に漏れる照明の使用を避ける。
- 消灯の徹底: 使用していない部屋の照明は消灯する。また、夜間はカーテンやブラインドを閉め、室内の光が外に漏れないようにする。
- 屋外照明の工夫: 庭や玄関で使用する屋外照明は、必要な場所だけを照らすようにし、光が上方向に漏れないように遮光フードを取り付ける。
- 地域活動への参加: 地域の光害対策に関する活動に参加し、情報収集や意見交換を行う。
地域・自治体レベルでできること
- 照明に関する条例の制定: 光害を防止するための照明に関する条例を制定し、適切な照明の使用を義務付ける。
- 公共照明の見直し: 公共施設の照明や街灯を、光害対策に配慮した照明器具に交換する。
- ライトアップイベントの規制: 過度なライトアップイベントを規制し、光害を抑制する。
- 住民への啓発活動: 光害に関する知識や対策方法を住民に周知するための啓発活動を行う。
企業レベルでできること
- 環境に配慮した照明の開発: 光害を抑制する照明器具や照明システムを開発する。
- 照明設計の改善: 商業施設やオフィスビルの照明設計を見直し、光害を抑制する。
- 地域社会への貢献: 地域の光害対策活動を支援する。
DarkSky Internationalの取り組み
光害対策を推進する国際的な非営利団体「DarkSky International」(旧称:国際ダークスカイ協会、IDA)は、世界中の地域や公園を「ダークスカイプレイス」として認定し、光害の少ない地域を保護する活動を行っています。
ダークスカイプレイスに認定されるためには、照明に関する厳格な基準を満たす必要があり、認定後も継続的な光害対策が求められます。
記事にも登場したグランドキャニオン国立公園や、イギリスのノーサンバーランド国立公園なども、このダークスカイプレイスとして認定されています。
光の色温度(色温度とは?)
照明の色温度とは、光の色を数値で表したもので、単位はケルビン(K)です。色温度が低いほど赤みがかった暖色系の光になり、色温度が高いほど青みがかった寒色系の光になります。
光害対策としては、色温度の低い(2700K以下)暖色系の照明を使用することが推奨されています。
これは、色温度の高い青色光が、メラトニンの分泌を抑制し、睡眠障害を引き起こす可能性があるためです。
LED照明の普及と光害
LED照明は、省エネルギーで長寿命というメリットがありますが、一方で、青色光を多く含むため、光害の原因となる可能性があります。
LED照明を使用する際には、色温度の低い製品を選び、光の拡散を抑えるための対策を講じることが重要です。
アストロツーリズム(アストロツーリズムとは?)
アストロツーリズムとは、星空観察を目的とした観光のことです。
光害の少ない地域では、美しい星空を求めて多くの観光客が訪れ、地域経済の活性化に貢献しています。
最後に – 星空を守るために、私たちができること
光害は、私たちの生活に深く根ざした問題であり、解決のためには、一人ひとりの意識と行動の変化が不可欠です。
照明の使い方を見直し、光害に関する知識を深めることで、美しい星空を取り戻し、次世代に引き継ぐことができます。
この記事を通して、光害問題に関心を持ち、できることから始めてみませんか?