
本記事は、アイルランドの国営放送RTÉ(Raidió Teilifís Éireann)の公式サイトに掲載された記事を基に、光害の問題について解説したものです。
RTÉは、アイルランドを代表する公共放送局であり、その報道内容は高い信頼性を誇ります。
https://www.rte.ie/brainstorm/2024/1106/1479451-ireland-dark-skies-light-pollution
はじめに
過去5ヶ月間で、25年ぶりとなる2度の壮大なオーロラが観測されました。
しかし、アイルランドの研究者による最新の調査で、こうした自然の天体ショーを楽しめる機会が急速に失われつつあることが明らかになってきました。
その原因は、私たちの生活を便利にしているはずの人工光による「光害」です。
光害とは – 増加する人工光がもたらす問題
光害とは、不適切または過剰な人工光による環境への悪影響のことです。
近年、LED技術の発展やエネルギー効率の向上により、私たちの生活はより明るくなりました。
しかし、この「明るさ」が思わぬ問題を引き起こしています。
リバウンド効果がもたらす過剰照明
「リバウンド効果」(別名:ジェヴォンズのパラドックス)という興味深い現象があります。
これは、技術が効率的になればなるほど、かえってその使用量が増えてしまうという経済学的な概念です。
私の考察では、このリバウンド効果は照明技術においても顕著に表れています。
LED照明の普及により、1つの電球あたりの電気代は大幅に下がりました。
その結果、「節約できるから」という理由で、必要以上に照明を設置する傾向が強まっています。
ジェヴォンズのパラドックス
技術改良によって資源やエネルギーの利用効率が上がると、かえってその資源やエネルギーの総消費量が増加してしまうという経済学上の現象です。
具体例を挙げると:
- 自動車の燃費が良くなったことで、かえって人々は長距離ドライブをするようになった
- エアコンの省エネ性能が上がったことで、以前より長時間使用するようになった
- LED照明は省エネなので、従来の電球より多くの場所に設置するようになった
このパラドックスは1865年に経済学者のウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズが、蒸気機関の効率改善が石炭の消費量を減らすどころか、かえって増やしてしまったことを観察して提唱しました。
なお、現代では「リバウンド効果」とも呼ばれ、環境問題や持続可能性を考える上で重要な概念となっています。
LED照明がもたらす予期せぬ影響
LED照明には、特に注意が必要な問題があります。
初期のLED照明の多くは、エネルギー効率を重視して青白い光を採用していました。
しかし、この青い光には短波長という特徴があり、これが人々の健康や野生生物に悪影響を及ぼすことが分かってきました。
個人的な見解として、この問題は技術の進歩と環境保護のバランスを考える上で重要な示唆を与えていると考えています。
現在では暖色系のLED技術も発達し、より環境に優しい選択肢も増えてきました。
新たな脅威 – 人工衛星による光害
メガコンステレーション衛星の影響
近年、新たな光害の源として注目されているのが人工衛星です。
特に、Starlinkなどの「メガコンステレーション衛星」と呼ばれる大規模な衛星群が問題となっています。
2030年までに約40万機の商用衛星が打ち上げられる予定であり、夜空の人工的な明るさは更に増加すると予測されています。
この状況について、私は深刻な懸念を抱いています。
衛星通信の利便性は理解できますが、人類共通の財産である星空の景観を損なうことには、より慎重な議論が必要ではないでしょうか。
見えない影響 – シフティング・ベースライン症候群
特に注目すべきは、「シフティング・ベースライン症候群」と呼ばれる現象です。
これは、過去25年間に生まれた世代の多くが、真の暗闇を経験したことがないという事実を示しています。
私の分析では、この現象は単なる星空観賞の問題を超えて、人類の自然との関係性の変化を象徴していると考えられます。
自然の暗闇を知らない世代が増えることで、光害に対する危機感も薄れていく可能性があります。
シフティング・ベースライン症候群
世代を重ねるごとに、人々が「正常」や「自然な状態」と認識する基準が徐々に変化してしまう現象です。
具体例を挙げると:
- 子供の頃から光害のある環境で育った人は、星があまり見えない夜空を「普通の夜空」だと思ってしまう
- 若い漁師は魚の数が減っている現状を「普通」だと考え、過去の豊かな漁場の状態を知らない
- 都市部で育った人が、街灯のない暗闇を「異常」だと感じてしまう
この概念は1995年に海洋生物学者のダニエル・ポーリーが提唱しました。各世代が若い頃に経験した環境を「正常」とみなすため、環境の悪化や自然の喪失に気付きにくくなる危険性を指摘しています。
重要な点は:
- 世代間で「正常」の基準が変化する
- 過去の状態を知らないため、環境の劣化を認識できない
- 環境保護の必要性を実感しにくくなる
この現象は環境問題全般について言えることで、生物多様性の損失、気候変動、大気汚染など、様々な分野で観察されています。
風力発電と光害の新たな課題
風力発電は再生可能エネルギーとして重要ですが、タービンの警告灯が新たな光害源となっています。
ドイツでは既に、航空機検知照明システム(ADLS)の導入を義務付けており、必要なときのみ点灯する仕組みを採用しています。
まとめ – 私たちにできること
光害は、単にスイッチを切れば解決する問題ではありません。
しかし、以下のような対策を考えることができます:
- 必要最小限の照明使用を心がける
- 暖色系LEDの選択
- 方向を考慮した照明設置
- 時間帯による照明調整
光害対策は、環境保護だけでなく、人々の健康や野生生物の保護にも直結する重要な課題です。
私たちの便利な生活と、美しい夜空のバランスを取るため、一人一人が意識を高めていく必要があるのではないでしょうか。