はじめに

夜空を見上げると、都市部では星々の輝きはかすんでしまいます。

しかし、光害から離れた場所では、満天の星空が広がります。

ところが近年、この美しい夜空が新たな脅威にさらされています。

それは、低軌道を周回する数千もの人工衛星による光害です。

人工衛星による光害の実態

急増する人工衛星の数

1958年にはわずか8機だった人工衛星の打ち上げ数が、2023年には2,600機以上にまで増加しました。

この急激な増加の主な要因は、SpaceX社が展開する「Starlink」と呼ばれる衛星インターネットサービスです。

現在、軌道上の人工衛星の半数以上がStarlink衛星であり、SpaceX社は最終的に約42,000機の衛星を打ち上げる計画を持っています。

天文学研究への影響

この膨大な数の人工衛星は、天文学者たちの研究に深刻な影響を与えています。

光学望遠鏡で撮影した画像には、通過する衛星の光の軌跡が写り込んでしまいます。

また、電波望遠鏡にとっては、衛星からの電波が「ノイズ」となり、観測を妨げています。

ワシントン大学天文学部の研究者メレディス・ロールズ氏は、この状況を「汚れたフロントガラスを通して科学を行おうとするようなもの」と表現しています。

深刻化する問題と対策の難しさ

SpaceX社の取り組みと限界

SpaceX社は天文学界と協力し、問題の緩和に取り組んでいます。

衛星の表面コーティングを変更したり、シールドを装着したりする試みがなされましたが、十分な効果は得られていません。

2024年8月には、電波天文学者向けの新技術が発表されました。

これは衛星からの電波ビームを電波望遠鏡から逸らす技術ですが、同日に発表された研究論文では、Starlink衛星が意図せず低周波の電磁波を漏洩していることが明らかになりました。

新たな問題 – 青く光る衛星

当初、Starlink衛星は赤く見えていましたが、新型のV2衛星は青く見えるようになりました。

これは可視性を下げるためのコーティングの結果ですが、衛星自体が大型化したため、結果的に青い光をより多く散乱させ、やや明るく見える結果となっています。

広がる影響と懸念

宇宙ゴミ問題

人工衛星の急増は、宇宙ゴミ問題も引き起こしています。

Starlink衛星の寿命は約5年で、その後大気圏に再突入して燃え尽きますが、その際に金属を残します。この長期的な影響はまだ不明です。

ケスラーシンドローム

さらに懸念されるのは、「ケスラーシンドローム」と呼ばれる現象です。

これは、1つの衛星が破壊されることで連鎖的に他の衛星も破壊され、最終的に地球軌道上のすべての人工物が破壊されてしまう現象です。

映画「ゼロ・グラビティ」でも描かれたこの現象は、私たちの日常生活に大きな影響を与える可能性があります。

文化的影響

夜空は人類の進化において重要な役割を果たしてきました。

科学的好奇心を刺激し、芸術や文化に影響を与えてきたのです。

しかし現在、北米の80%以上の人々が天の川を見ることができない状況にあります。

この文化的損失は計り知れません。

今後の展望と課題

規制の必要性

現状は「ワイルドウェスト」のような状況だと言えます。

国際的な協調や規制が不十分なまま、各企業が競争的に衛星を打ち上げています。

SpaceX社以外にも、中国が40,000機の衛星打ち上げを計画しており、OneWebなど他の企業も数百機規模の衛星群を提案しています。

公衆の意識向上の重要性

モントリオールのマギル大学の天体物理学者ビクトリア・カスピ氏は、「10億ドル規模の産業vs科学」という構図に悲観的な見方を示しています。

彼女は、この問題を管理する唯一の方法は、光害に対する公衆の認識を高めることだと指摘しています。

まとめ

人工衛星による光害は、天文学研究だけでなく、私たちの文化や環境にも大きな影響を与える問題です。

技術の進歩と科学研究、そして人類の文化的遺産のバランスをどのように取るべきか、社会全体で議論し、解決策を見出していく必要があります。

夜空の美しさを守ることは、単なるロマンチックな願望ではありません。

それは、科学の進歩と人類の文化的遺産を守ることにつながるのです。

私たち一人一人が、この問題に関心を持ち、声を上げていくことが重要です。

そうすることで、技術の恩恵を受けながらも、星空の輝きを失わない未来を作り出せるかもしれません。