私たちが夜空を見上げるとき、星々の瞬きの背後で何が起きているのでしょうか。

NASAの研究チームが2025年12月に発表した最新の論文によると、地球周回軌道上の通信衛星がハッブル宇宙望遠鏡などの観測を妨げる「衛星汚染(Satellite Contamination)」が急速に悪化しています。

今後10年で、ハッブルの画像の約40%が衛星の光に影響を受ける可能性があり、中国の望遠鏡「巡天(Xuntian)」では最大96%が影響を受ける見込みです。

安価な打ち上げ技術と通信需要の拡大がもたらした「軌道上の光害」が、科学の最前線を揺るがしています。

この記事では、この問題の実態、研究者とSNS上の反応、そして今後の対応策を探ります。


爆発的に増える衛星とその影響

わずか数年前まで、地球を周回する人工衛星の数は5,000基程度でした。

ところが2025年、欧州宇宙機関(ESA)のデータではその数が15,800基を超え、2035年には最大56万基に達する可能性があるといいます。

この急増の主因は、SpaceXの「スターリンク(Starlink)」やAmazonの「Kuiper」など、低軌道通信衛星(LEO satellite)によるメガコンステレーション(巨大衛星群)計画です。これらは高速通信や地球観測に貢献する一方、望遠鏡の視野に「光の筋」として写り込み、天文学的データを汚染しています。

NASAのアレハンドロ・ボルラフ博士率いる研究では、ハッブルが1回の撮影で平均2.14基の衛星を捉えてしまうと試算されました。

地球低軌道(約550km)を漂うこれらの衛星は、太陽光を反射して観測画像に白い線を描き、微弱な天体光を覆い隠してしまいます。

特に暗い銀河や超新星、そして未知の系外惑星の発見には、極めて微細な光の変化を捉える必要があります。ボルラフ博士は言います。

「衛星が視野を横切ることで、星の輝度変化が“消えて”しまう。発見のチャンスを失うのです。」


悪化する「宇宙の光害」

この「光害(Light Pollution)」問題は、地上の天文台だけでなく、地球軌道上の望遠鏡にも及び始めました。

従来、宇宙望遠鏡は大気のゆらぎから逃れるために軌道上に設置されてきましたが、皮肉にも今では人工衛星の反射光が新たな障害となっています。

研究によると、衛星が放つ光の反射源は主に3つあります。

  • 太陽光の反射(主原因)
  • 地球や月からの反射光
  • 表面の金属パネルやアンテナからの散乱光

近年、一部の企業は「ダークサテライト(低反射衛星)」の開発を進めています。しかし反射率を下げると衛星表面の温度が上昇し、赤外線の放射が増加。

これが別の波長帯(特に赤外線望遠鏡)に新たなノイズを生み出すという、ジレンマが生まれています。

一方で、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は地球から約150万km離れたラグランジュ点(L2)に位置し、衛星汚染をほぼ受けません。

しかし、地球近傍に留まるハッブルや、2026年に打ち上げ予定の中国「巡天」、ESAの「ユークリッド」などは、今後ますます厳しい環境下に置かれそうです。


SNS上での反応と市民の声

このニュースが報じられると、SNSでは多くの議論が巻き起こりました。
X(旧Twitter)では、

「宇宙に行くたびに“地上の影響”がついてくる時代か…」
「ハッブルの画像にスジが入るとか、SFじゃなく現実なんだな」

といった驚きや嘆きの声が寄せられました。

また、一部のユーザーは「通信衛星の恩恵は理解するが、科学的損失とのバランスをどう取るのか」という経済 vs 科学の対立軸で議論を展開。

アマチュア天文家たちは「衛星のフレア(反射光)」を避ける観測ソフトの共同開発を進めるなど、草の根の対応も始まっています。

天文学者の中には、民間企業に対して衛星位置の精確なデータ公開や、撮影タイムスケジュールとの調整を求める声もあります。

これに対し、SpaceXは「可能な限り反射を抑制する設計を進めている」と説明していますが、現実には衛星の増加速度がその努力を上回っています。


科学と産業、共存への模索

ボルラフ博士は「今こそ最適な共存モデルを探す時です」と語ります。
衛星を望遠鏡より低軌道に配置することで視野から除外する案も検討されていますが、通信効率が落ちる問題があります。

そのため、各国の宇宙機関や企業が協力し、国際的な衛星配置ルールを整備する必要があると指摘します。

現在、国際天文学連合(IAU)や米国連邦通信委員会(FCC)では、反射率の上限や打ち上げ件数制限などの新しい宇宙環境ガイドラインの策定が進んでいます。

地球の夜空を「共有財産(Common Heritage of Humankind)」と捉える視点が広がってきたのです。

科学者の間では、AIを活用した画像再構成や、衛星通過時刻のリアルタイム通知など、技術的な緩和策も登場しています。

しかし、真の解決には「一国・一企業」ではなく、地球規模の協調が不可欠です。


これからの天文学のために

宇宙望遠鏡が直面する衛星汚染は、単なる技術的問題にとどまらず、「人類がどのように宇宙と共存するか」という倫理的課題でもあります。

経済発展と科学探究という、2つの価値を天秤にかけながら、私たちは持続可能な「宇宙の公共空間」を守る必要があります。

今後、企業による「責任ある打ち上げ」や、国際協定に基づいた環境影響評価が必須の時代になるでしょう。

夜空の美しさと、科学の未来を守るために、いま行動する時が来ています。


衛星汚染が及ぼす意外な分野への影響

この問題は、専門的な天文学だけでなく、他分野へも影響を広げています。

  • 地球観測データ:衛星の反射光が地表観測画像のノイズ源になる。
  • AI画像解析:学習データに「衛星筋」が混入すると誤認識の恐れ。
  • 教育・市民科学:アマチュア観測者が得る画像の品質が低下。

また、宇宙ごみ(スペースデブリ)の増加との複合的リスクも無視できません。

衛星同士の衝突は新たな破片を生み、さらなる反射源となる「負の連鎖」へと繋がるのです。


まとめ

地球を覆う通信衛星の光が、私たちの「宇宙を見る目」を曇らせています。
ハッブル望遠鏡に象徴される宇宙観測の精度が損なわれれば、人類の知的探究そのものが危機に直面します。

一方で、通信衛星は現代社会に不可欠なインフラでもあります。だからこそ、科学者・企業・市民が協力し、軌道上の環境を保全する新しいルールを築くことが求められています。

次に星空を見上げるとき、その光の向こうに「人類の選択」が問われていることを思い出してみてください。