満天の星が見える夜空――それは文明の光が届かない場所にしか残されていません。
2025年11月29日付のBBCの記事によると、イングランド北西部・カンブリア州で「光害(light pollution)」を測定・削減するための光センサー設置プロジェクトが進行中です。
https://www.bbc.com/news/articles/cdrn0y0zdeyo
この活動を推進しているのは環境保護団体「Friends of the Lake District」。
同団体は、増え続ける人工光が星空と生態系に及ぼす影響を訴え、地域の子どもたちとともに「暗い夜空を取り戻す」取り組みを進めています。
夜空を測る――光センサーが語る現実
このプロジェクトでは、国際的な研究ネットワーク「Stars4All Foundation」が提供する光メーター(照度計)を設置し、1分単位で光の量を記録しています。

カンブリア州内では、すでにコッカーマス近郊のセント・ブリジット小学校や、クリアター・ムーアのエナーデール小学校に導入されました。
これらの測定データは世界中の研究者が閲覧でき、地球規模での光害(light pollution)動向を解析する貴重な資料となります。
光害とは、本来暗いはずの夜間に過剰な人工照明が空を照らす現象で、星の見えにくさだけでなく、動植物の行動リズムにも深刻な影響を与えます。
「ここ数年、湖水地方でも光害が毎年わずかずつ増えています」と、同団体のダークスカイ担当オフィサー、ジャック・エラビー氏はBBCに語っています。
虫たちが消える夜――光害の生態系への影響
光害が最も敏感に影響を及ぼすのは、夜行性の生き物たちです。
BBCの記事でもエラビー氏が指摘するように、夜間に活動する蛾(が)やコウモリなどは、光に誘引されて誤った方向へ飛んでしまい、本来の繁殖や採餌の機能が損なわれます。
研究では、光害が原因で一部の蛾の個体数が30〜40%減少している地域もあると報告されています。
蛾は植物の受粉を担う重要な存在であり、その減少は生態系全体のバランスを崩す「連鎖的影響(cascade effect)」を引き起こします。
エラビー氏は「人間がベッドに入った後、暗闇の中で活動する多くの生物が生命を支えている」と強調します。
つまり夜空の明るさは、見上げる美しさの問題ではなく、「命を育む環境」の指標でもあるのです。
子どもたちと守る星空――教育と地域の力
BBCによれば、Friends of the Lake Districtは地域の学校と連携し、光害防止の啓発イベントを実施しています。
子どもたちは自らポスターを制作し、「夜空を守ろう」というメッセージを地域に発信しました。
啓発活動では、家庭でもすぐにできる対策が紹介されました。
- 電球を暖色系(色温度3000K以下)のものに交換
- 夜間の常灯を控え、モーションセンサー付き照明に変更
- 不必要な屋外照明を消灯
特に「子どもたちが科学と自然保護を結び付けて理解できる」ことの意義は大きいと、教育関係者からも評価の声が上がっています。こうした草の根運動が、暗闇の価値を地域に再認識させているのです。
科学と地域がつなぐ未来――持続可能な光のあり方
照明技術の進化は、同時に環境とのバランス調整を求めています。
LEDは省エネ性能に優れる一方で、青白い光が昆虫や鳥類に強い影響を及ぼすことが指摘されています。
エラビー氏率いるプロジェクトでは、今後さらにカンブリア州内のケンダル、トラウトベック、ファーネス半島、カーライル近郊に光測定器を新設予定です。
これにより、地域全体の光環境をデータで「見える化」し、自治体が照明計画を改善する基礎資料とします。
筆者の見解としても、「人間中心の夜の灯り」を見直すことは、持続可能な地域社会づくりの第一歩だと考えます。街灯ひとつの選び方が、星と虫と地球をつなぐ小さなアクションになるのです。
光害対策の世界動向
国際天文学連合(IAU)は、2022年に「世界光害対策ガイドライン」を発表し、自治体や企業に光設計の見直しを提言しました。
- 光を必要な場所・時間だけに限定する「スマート照明」
- LEDの色温度を3000K以下に維持
- 照明器具の反射を地面方向に制御
また、国際ダークスカイ協会(IDA)は、星空を観測・保全する地域を「Dark Sky Place」として公式認定しています。
まとめ
BBCが報じたこのプロジェクトは、単なる環境保全活動ではありません。
それは、星空を未来の世代へ残すための“社会全体の意識改革”でもあります。
カンブリアの子どもたちのように、一人ひとりが照明の使い方を見直せば、夜空には再び無数の星々が輝くでしょう。
――暗闇を守ることは、自然を、そして人の心の静けさを守ることでもあるのです。